最終年度は、それまでに実施した調査研究をまとめ、国内外にて報告するとともに、得られたデータに対し、従来は言語化の困難であった、人々の「思い」「感情」を含め分析するべく「市民圏理論」の枠組みに沿った分析を実施した。 まず国際社会学会において、日本国内における第三者の関わる生殖技術の認識状況について、日本に特有の文化・社会的背景の説明を交えて報告した。日本生命倫理学会は、自らがオーガナイザーとして公募セッションに応募のうえシンポジウムを開催した。本セッションは、本研究課題が焦点を当てる「開かれた議論」を目指し企画を立てた。一般的にそのような議論は、ハーバーマスの市民的公共圏における熟議を前提として理解される。しかし生殖技術に関する法整備は、人々の強い感情に突き動かされることで、ごく短期間のうちに急激に普及が促されたり、押しとどめられてきた経緯がある。本セッションにより、従来の議論では不可視化されたり、社会に顧みられなかった人々の意見や、社会的に価値の低い情報とみなされ、公的議論には組み込まれずにいた論点に光を当てる作業を行った。 また本研究では、人々の「感情」を組み込みながら構築されてきた、生殖技術に対する文化構造を「市民圏理論」を用いることにより、秩序立てて説明する試みに取り組んだ。この作業のため、研究期間中は文献調査や関連学会・研究会への参加を重ねて市民圏理論への理解を深めてきた。最終年度である2023年度は、これまで収集した生殖技術に関する文化表象を、実際に当該理論にあてはめる作業を行った。その結果として、従来は散発的に生じ、時代が下るにつれて拡散し続けるように映っていた、生殖技術に関する様々な出来事や、それらに対する認識を、明確な論理構造のもと秩序立てて説明することできた。
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