今年度、新型コロナウイルス感染症の流行がようやく落ち着き行動制限も求められなくなったことから、8月から9月に約1ヶ月、3月に約2週間、ブルガリアで現地調査を実施することができた。研究計画では、ブルガリアのみならず、人々が移動した先のイタリアで聞きとり調査を行う予定にしていたが、コロナ禍の間にさまざまな理由からブルガリアへの帰国を選択した人も少なくなく、そうした人たちから帰国の理由と現状、仕事観、家族観に関わる話を聞くため、ブルガリアでの調査に注力することにした。そして、夏季と3月に調査をおこなうことで、ケア・ワーカー、運転手、農業労働者など、多様な“エッセンシャル・ワーカー”から話を聞くことができた。その結果、2000年代に国際労働移動を選択した母親世代だけでなく、その子ども世代も、パンデミックやロシアによるウクライナ侵攻等に影響を受けつつ、仕事(としてのケア)と家族のケア、そして自分自身のケアの実現を考慮して、ある人たちは国外にとどまり、別の者たちはブルガリアへの帰国を選択していることが明らかとなった。同時に、若い世代ではカップル、あるいは子どもも含めた家族単位での移動が顕著で、かつて母親世代が単身での移動を選択したのに対し、近年、家族規範がより強く働いている(「再家族化」の)可能性もみえてきた。 こうした調査結果を、9月にはブルガリア科学アカデミー附属民族学・民俗学研究所で報告し、移動や出稼ぎに関心を持つ研究者たちと意見交換をおこなった。さらに今後、2024年7月に予定されているヨーロッパ社会人類学会(EASA)においても本研究課題に関わる発表(採択済み)を予定しており、そうした場での議論により理論的考察を深めたうえで、本研究の成果としてまとめることを計画中である。
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