研究課題/領域番号 |
19K12625
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研究機関 | 福岡女子短期大学 |
研究代表者 |
加藤 朋江 福岡女子短期大学, その他部局等, 准教授 (90296369)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 早期自然流産 / 自然流産 / あいまいな喪失 / 妊娠 / 生殖 / 子ども観 |
研究実績の概要 |
2019年度においては、下記の2件を中心に研究を実施した。 (1)研究計画の構築と関係資料の収集:本年度は初年度であるため、研究計画全体の大まかなデザインについて考え、また方法論についてのアイデアを得るため、各種の社会学関連の研究会や学会に参加した。同時に、テキストマイニングや質的調査法について書かれた書籍を収集、今後の研究手法の参考とした。早期の自然流産は妊娠した女性の15~40%が経験するとされ、「よくあること」ではあるが社会の中で可視化されることは少ない。本研究は当事者たちがそれをどう受け止めているかということや、そこから見えるジェンダー規範や子ども観について社会学の視点から考察することを目指している。 (2)当事者である女性たちのインタビュー記録の分析:2015年において実施した聞き取り調査をデータとして分析を実施し、学会報告と論文作成を実施した(論文は投稿中)。この作業を通じて、①医療テクノロジーの進展により、胎児の人格化が妊娠週数5、6週目の早い時期に行われること、②それゆえに早期自然流産の経験が妊娠の当事者たちによっては「我が子の喪失」として受け止められること、③早期自然流産による経験は精神医学のタームでいうところの「あいまいな喪失」であること、等の見解が得られた。あいまいな喪失とは、「身体的には不在であるが心理的に存在」もしくは「身体的には存在しているが心理的には不在」な状態を指し、自然流産による胎児はその親たちにとって前者であること、そのためにより特別なケアや配慮が必要であることを指摘した。なお、データの公表に当たっては、改めて情報提供者とコンタクトを取り、テキスト化された内容の公開範囲の確認を実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画においては、早期自然流産を経験した当事者や、産婦人科医・助産師といった医療従事者に対する聞き取り調査を進める予定であった。だが、こちらの計画を進めることができず、事例の収集を重ねることが叶わなかった。今後は、当事者への聞き取り調査が新型コロナウィルス感染症の流行を受けて難しくなってくると予想されるが、公開された情報(妊婦用雑誌記事における投稿など)を整理するなどして対応したい。 また、3月の授業が入っていない期間を利用して、東京の国立国会図書館や大宅壮一文庫に出張し、「早期自然流産」についての雑誌記事や論文等の検索・文献複写を進める予定であったが、こちらも東京への移動が難しくなった関係で全く手をつけることができなかった。こちらについては、ネット上の雑誌記事検索と文献の取り込み、移動が可能な範囲の図書館への出張をおこなうなどして進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策であるが、さしあたり以下のように考えている。 (1)医療従事者に対する聞き取り調査 産婦人科医や助産師など、女性の妊娠と出産に関わる医療従事者に対して「早期自然流産」が医療現場でどう扱われているのか、当事者の女性たちがどう処遇されているのか、また精神的なケアの実際などについて聞き取り調査を実施する。現在は新型コロナウィルス感染症の影響で「直接会って話を聞く」ということが難しい状況であるが、オンラインのツールを活用するなどして事例を収集したい。 (2)早期自然流産についての文献資料の蒐集 一般向け、及び専門家向けの雑誌記事を検索・蒐集、それを分析することによって、日本における早期自然流産の歴史社会学的考察を実施したい。分析手法としては、いくつかのコーディングを実施しての内容分析や、テキストデータのテキストマイニングなどの手法を用いて、そこに現れる何らかの法則性について指摘をおこないたい。 「新しい日常」が研究の世界にも影響を及ぼす現在において、これらの研究を進展されてゆくためには、ICTのさらなる活用と技術の習得が目指される。当初の研究計画では出張の旅費を多く計上していたが、2020年度においては出張の回数が減る見通しがあり、その代替手段としてネット上のデータを集積・活用することを通して、研究を進展させていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画においては、2020年3月において国立国会図書館や大宅壮一文庫における出張と文献検索・文献複写を予定していた。新型コロナウィルス感染症の影響のため移動が不可能となり、その分の出張旅費を使いきれなかった。2020年度以降においてもこのように出張旅費を使わない傾向が続くと思われるが、ICTの活用や技術の習得、機器の購入費用に活用することとしたい。
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