光触媒や太陽電池などの光エネルギー変換材料の高効率化には、光励起キャリアのダイナミクスを理解することが不可欠である。光照射により生成する光励起キャリア(電子・ホール)は占有状態と非占有状態の間を移動する。従って、光励起キャリアダイナミクスを包括的に理解するためには、占有・非占有状態の両者を観測することが不可欠であるが、これまでそのような実験的取り組みは存在しない。 そこで本研究は飛行時間(TOF)型電子分析器を使用したピコ秒時間分解X線吸収・光電子分光(XPS/XAS)システムを開発し、占有・非占有状態両方の時間変化を追跡し、光エネルギー変換材料における光励起キャリアダイナミクスの全貌を解明することを目的とする。また、TOF型電子分析器では全運動エネルギーの電子が検出器に到達し、そのエネルギー分解が可能という特長がある。この特長を活かし異なる検出深さのXASスペクトルを一度に測定することを目指した。 本研究では、まず最初にTOF型電子分析器を用いたXAS測定システムを開発した。このシステムでは、TOF型電子分析器をビームラインの軟X線アンジュレータ及び分光器と連動して計測可能である。光触媒材料として重要なrutile型TiO2(110)表面について、Ti L-edge/O K-edge XASスペクトルの測定に成功した。TiO2表面に氷H2O薄膜を成長させた深さ方向に化学状態の分布がある実験試料のO K-edge XASスペクトルを測定した。また、TiO2(110)清浄表面について同一システムを用いてピコ秒時間分解XPS/XASスペクトルの測定を行うことに成功した。
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