研究課題/領域番号 |
19K12631
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
住友 洋介 日本大学, 理工学部, 助教 (70729243)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アンジュレーター用ダクト変更 / 電子ビーム運転調整 / テラヘルツ光 / アンジュレーター放射 |
研究実績の概要 |
既存のアンジュレーターを用いたテラヘルツ波生成の為には電子ビームのエネルギーを10 MeV程度まで下げる必要があるのだが、低いエネルギーの電子ビームから生成される放射光は大きな角度広がりを持つため、アンジュレーター装置内のダクトで発生する輸送損失を軽減する目的で、アンジュレーター用ダクトの変更を行った。アンジュレーター装置の磁石間ギャップを維持しつつ、その垂直方向での空間を確保し輸送効率を改善するよう設計したものである。設置後は中赤外自由電子レーザー生成を含めた他の実験と干渉がないことを確認している。 2020年度は年度開始早々コロナの影響により入校制限がかかり、また、しばらく保守管理ができない状況が影響し、制限解除後も加速器運転に関わる機器の故障に見舞われ運転不可能となる期間が長期間存在することとなった。運転再開後には他に予定されていたユーザー利用実験等との兼ね合いもあり、結果として限られた運転時間となってしまったが、アンジュレーター装置のあるビームラインに13.5 MeVのエネルギーの電子ビームを通すことには成功した。日大加速器は普段は高いビームエネルギーでの利用となっており、これほど低いエネルギーでビームを通したのは初めてのことである。なお、運転においては既存の高いビームエネルギーのパラメーターから始め、徐々にエネルギーを下げるよう調整しているのであるが、調整中は大きくビーム状態が変化することからアンジュレーター磁石への放射線の影響を考慮する必要があった。これに対応するため、アンジュレーター装置各所に新規に設置したCsIシンチレーション検出器を放射線モニターとして活用し、影響を最小限とする運転が行えるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では2020年度中に測定機器の設置を行い、テラヘルツ測定を開始する予定でいたのだが、運転時間が大幅に制約されたこともあり測定実験までには至らなかった。しかし、限られた時間ではあったが、予定している10 MeV程度に近いビームエネルギーにおいてアンジュレーターダクト内にビームを通すことには成功している。大幅に運転調整を行う際には放射線による損傷を避けるため加速器本体室から外に出してあるが、熱センサーや焦電素子を用いたテラヘルツ帯域光測定機器の準備も整っている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度では、熱センサーや焦電素子を始めとした測定光学系を加速器実験室内に組み上げ、測定されるテラヘルツ光信号強度を最大とするように運転調整を行う。測定機器は放射線による損傷を軽減するため、加速器本体室内において鉛の遮蔽壁で囲み測定を行えるようにする。 研究代表者が提案している「組み合わせ速度集群法」においては、各進行波加速管における加速・減速位相が重要となるため、この位相情報をも参考とした運転が行えることが望ましい。しかし、日大加速器では空間上の制約もあり、各加速管通過後のビームエネルギーの測定が行えていない状態である。2020年度の運転においては、各加速管出口でモニターしている高周波出力のビームオン・オフ時の信号強度の違いから、大まかなビームの加速・減速状況をモニターできることがわかった。今後は、アンジュレーター磁石への放射線ダメージを低減しつつ、高周波出力信号からの加速・減速位相の情報を参考にした上で、コヒーレントテラヘルツ光生成のための運転調整を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に予定していた国際研究会はキャンセルとなり、国内研究会もオンラインでの開催となった。このため、予定していた旅費分等の予算はプロジェクトに必要な物品の購入に使用し、最終的に187円が残金として発生することとなった。この分を年度内に無理に消費するよりは、次年度予算と合わせて光学系などの消耗品として使用するほうがプロジェクトを柔軟に進行する上で利点があると考え、次年度に繰り越すこととした。
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