研究課題/領域番号 |
19K12633
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
鈴木 拓 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主席研究員 (60354354)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イオン散乱 / 表面 / イオン表面相互作用 |
研究実績の概要 |
低速イオンの表面散乱(低速イオン散乱分光法:LEIS)を利用した表面構造解析において、表面原子の位置の決定精度にはシャドーコーンの形状が大きく関わる。特に、スピン軌道相互作用(SOC)は非対称性散乱の起源となるため、角度分解測定による表面構造解析では問題になり得る。これに対して、シャドーコーン形状のスピン依存性を詳細に調べた昨年度の研究から、SOCが大きなHe+-Au衝突においても、スピン非対称性の入射角度依存性は観測されなかった。このように、スピンの効果を入れても、シャドーコーンの形状は基本的には古典力学的な2体衝突で決まることが明らかとなったので、今年度はこの知見に基づき、LEISによる表面分析を大気圧下で動作するデバイスに適用すべく、パルスジェット法とLEISとの組み合わせについて検討した。このデバイスとしては、金属酸化物半導体ガスセンサを想定した。これに関係する一連の手法開発と整備を行い、その結果、試料表面での圧力が過渡的な準大気圧に達する環境下で、LEISスペクトルの取得に成功した。LEISは表面に極めて敏感な手法であり、大気圧下では大気中成分の影響によって表面を分析することは出来ないが、このようにパルスジェット法と組合わせることで、大気圧下での状況を模した表面をLEISで分析可能であることが示された。さらに、希薄エタノールをセンシング中の酸化亜鉛表面のLEIS分析では、ガスセンサの駆動環境下(大気圧、400℃、50ppm濃度)におけるセンシングが、最表面の組成変化に起因することが明らかとなった。このように、LEISによるスピンと構造の複合分析の適用範囲を、ガスセンサ動作環境(大気圧、数百℃)にまで拡張することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、低速イオン散乱分光(LEIS)におけるスピン軌道相互作用(SOC)を解明し、シャドーコーンを利用する表面構造解析とスピンとの関係を明らかにすることで、LEISによるスピンと表面の複合分析を実現することである。これに対して、偏極イオンを利用した表面衝突の角度分解測定等から、シャドーコーンとスピンとの関係を明らかにした。そして更に、この知見に基づき、LEISをデバイス動作環境中(大気圧、数百℃)の分析手法に発展させ、ガスセンサ等のデバイス動作環境(大気圧、数百℃、ガス濃度ppm)にまで手法の適用範囲を拡張することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成果として、LEISの分析適用範囲を、表面、電子スピン、ガスセンサ動作環境(大気圧、数百℃、ガス濃度ppm)にまで拡張した。この成果を活かして、LEIS等の低速イオンビーム技術をオペランド分析に展開する。具体的には、パルスジェット法と低速イオンビーム技術を組合わせることで、イオンビーム分析技術に必要な真空(10^-2 Pa程度)を保持しつつ、試料表面での圧力を過渡的に準大気圧にまで高めることで、ガスセンシング等の特性を真空中で発現させる。このようにして真空中で再現した疑似大気圧下でのデバイス(ガスセンサ)表面の組成と構造を分析することで、これまでの手法では不可能であった、ガスセンシングを担う最表面の負電荷吸着酸素の構造解析等を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額が生じた理由】当初は設備備品として新たに光ファイバー増幅器を購入する予定であったが、研究の進展に伴い、本研究の後半における表面構造解析を拡充する予定となったため、この光ファイバー増幅器の新規購入を取りやめ、その代わりに既存の光ファイバー増幅器を修理して継続使用することとした。 【使用計画】拡充することにした表面構造解析に関する開発では、パルスジェット法を導入して、これと低速イオン散乱分光を組合わせることで、大気圧下での最表面の構造解析について検討する。すなわち、スピンと構造の表面複合分析手法として、低速イオン散乱分光を高真空中に置かれた試料のみならず、大気圧下での試料にも適用可能な分析手法として発展させる。このような計画に基づき、次年度使用額はパルスジェット法への展開に必要なパルスバルブとそのコントローラ、また試料として用いる酸化物単結晶基板等の購入に用いる予定である。
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