研究課題
1950年代末に発見されたSi(111)7×7再構成表面は極めて複雑な再構成表面として知られている。様々な表面構造解析手法で研究されたが、構造(原子の座標の詳細)が確定されたのは四半世紀後の1980年代であった。しかし未だに,すべての原子位置の詳細が決定されているとは言えない。1992年に提案され1998年に実現された全反射高速陽電子回折(TRHEPD,トレプト)は,当然その決定には参加していないが,この手法はその後,非常に優れた表面感度と精度をもつことが実証されてきた。特に,2010年代に入ってKEK物質構造科学研究所(物構研)の低速陽電子実験施設に,従来の100倍のビーム強度をもつ装置が完成し,次々新奇表面の原子配列を決定している。本研究課題では,このTRHEPDのみを用いて,Si(111)7×7表面の原子座標を高精度に決定しようとしている。また,そのために、動力学的回折理論を用いたTRHEPD解析法の,高効率化・自動化を行っている。実験はKEK物構研・低速陽電子実験施設に稼働中の上記装置を用いる。その準備として2019年度は,蛍光板上の回折パターンをCCDカメラで撮影する際のバックグラウンド・ノイズを画期的に少なくするために、反射防止処理を行ったビューポートを開発した。初期故障があったが,年度内に補修した。一方その間,超高真空実験チェンバ内で熱処理して Si(111)7×7再構成表面を作り,従来のビューポートのままで予備測定を行った。具体的には、エネルギー10keVの陽電子ビームを[11-1]方位から7.2°ずれた方位から入射する「一波条件」で、視射角の関数として回折スポット強度をプロットする「ロッキング曲線」を測定した。本測定は2020年度に行う。
2: おおむね順調に進展している
バックグラウンド・ノイズを極力少なくするための反射防止処理済みビューポートを開発した。
まず,反射防止処理をしたビューポートを用いて、蛍光板上の回折パターンをCCDカメラで撮影し,バックグラウンドの低下を確認する。次に,令和元年度に行った予備測定と同じ条件で一波条件のロッキング曲線を測定する。一波条件では原子位置のz 座標(表面に垂直な座標)を決めることができる。次に、面内の x、 y 座標を決めるため、最近開発された「方位角プロット法」を用いる。まず視射角θ を全反射臨界角 θc 以下に設定して、方位角φを [-110]方位の周りで変化させて00スポットの強度を測定し、動力学的回折理論を用いて吸着原子と第1層の原子の x 座標を決める。このとき第2層以下の原子の情報を含まないので、少ないパラメタの解析が可能である。次にθ を大きくしながら下層の原子の x 座標を順に決めていく。次に、θ を θc 以下に戻して、試料の方位角φを90°回転させた[11-2] 方位の周りで変化させて同様の測定を行い、最表面から順に各原子の y 座標を決めていく。この方法で、未だに理論計算でも座標が与えられていない表面下第4層に緩和が存在するかどうかも明らかにする。測定にはTRHEPDのエキスパートであるKEK物質構造科学研究所の望月出海助教(研究協力者)の協力を得る。また、解析には望月助教、およびRHEEDによるSi(111) 7×7 再構成表面構造解析の実績がある東北大学金属材料研究所の花田貴助教(研究協力者)の助言を得る。さらに,動力学的解析理論を用いた解析プログラムの高度化には鳥取大学工学部の星健夫准教授の協力を得る。
2019年度に開発した反射防止処理済みビューポートに初期故障が生じたので,本測定を2020年度に延期したため。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 5件、 招待講演 8件) 備考 (2件)
Acta Physica Polonica A
巻: 137 ページ: 188~192
10.12693/APhysPolA.137.188
Carbon
巻: 157 ページ: 857~862
10.1016/j.carbon.2019.10.070
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