研究課題/領域番号 |
19K12634
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
兵頭 俊夫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局等, ダイヤモンドフェロー (90012484)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 陽電子回折 / RHEPD / 表面構造 / Si(111)7×7 / 再構成表面 / 動力学的回折理論 |
研究実績の概要 |
1950年代末に発見されたSi(111)7×7再構成表面は極めて複雑な再構成表面として知られている。様々な表面構造解析手法で研究されたが,構造(原子の座標の詳細)が確定されたのは四半世紀後の1980年代であった。しかし未だに,すべての原子位置の詳細が決定されているとは言えない。 1992年に提案され1998年に実現された全反射高速陽電子回折(TRHEPD,トレプト)は,その決定には参加していないが,この手法はその後,非常に優れた表面感度と精度をもつことが実証されてきた。特に,2010年代に入ってKEK物質構造科学研究所(物構研)の低速陽電子実験施設に,従来の100倍のビーム強度をもつ装置が完成し,次々新奇表面の原子配列を決定している。 本研究課題では,このTRHEPDのみを用いて,Si(111)7×7表面の原子座標を高精度に決定しようとする。また,これまで,動力学的回折理論を用いたTRHEPD解析は熟練研究者の経験に基づいて行われていたが,自動化・高効率化することによって,短時間で,より客観的な結果が得られようにする。 実験はKEK物構研・低速陽電子実験施設(SPF)に稼働中のTRHEPD装置を用いる。データのバックグラウンド・ノイズを画期的に少なくするために,反射防止処理を行ったビューイングポートを用いる。2020年度は,陽電子ビームを[11-1]方位から7.2°ずれた方位から入射する「一波条件」で, 00回折スポットの「ロッキング曲線」を測定と,互いに垂直な2つの方位,[-110]および[11-2]について00スポットの「方位角プロット」を測定した。2021年度にこれらのデータの解析を行う。「一波条件」のデータからは各原子の座標の,表面に垂直なz成分が,「方位角プロット法」のデータからは表面内のx,y成分が得られる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一波条件でのロッキング曲線と,[-110]方位および[11-2]方位の周りでの方位角プロットのデータを取得した。これらを解析すれば,原子位置座標のx,y,z成分が得られる。ただし,開発したビューイングポートに不具合が生じたので,別の方式を試みる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
以前の(反射防止処理の無い)ビューインポートでのデータはそろったので,解析を開始する。まず,一波条件のデータから,動力学的回折理論を用いて,原子位置座標のz 成分(表面に垂直な成分)を決める。 次に,「方位角プロット法」で,方位角φの関数として測定した00スポットの強度のデータから,面内の原子座標(x, y)を決める。x成分は[-110]方位の周りで方位角φを変化させたデータ,y成分を決めるときは,それに垂直な[11-2]方位の周りで変化させたデータを用いる。まず視射角θ が全反射臨界角 θc 以下のデータから,吸着原子と第1層の原子の面内座標成分を決める。続いて次第にθが大きなデータを用いて下層の原子の面内座標を順に決めていく。このときx成分とy成分は独立に決めることができる。このように,各原子のx,y,z座標成分を独立に,また上の層から順に決めることができるので,これまでの実験法より精度が上がると期待している。 解析には,昨年度に整備されて東大物性研の計算機センターで公開された表面構造解析ソフトウェア2DMATを利用する。 新しいビューイングポートが納品されたら,測定と解析を繰り返し,結論を確認する。 これまでに引きつづき,測定にはTRHEPDのエキスパートであるKEK物質構造科学研究所の望月出海助教(研究協力者)の協力を得る。また,解析には望月助教,およびRHEEDによるSi(111) 7×7 再構成表面構造解析の実績がある東北大学金属材料研究所の花田貴助教(研究協力者)の助言を得る。さらに,動力学的解析理論を用いた解析プログラムの高度化には鳥取大学工学部の星健夫准教授の協力を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
開発した反射防止処理済みビューポートに不具合が生じ,新たなビューポートの製作と測定を次年度に持ち越したため。また、試料基板材料・消耗品購入の一部を次年度に持ち越したため。
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