Si(111)7×7再構成表面の構造は極めて複雑で,原子配置は発見から四半世紀後の1980年代に高柳らが提唱した「DASモデル」で決着したが,実験的には未だにすべての原子位置の詳細が決定されていない。2020年には,Demuthらによって新たな原子配置である「DFAモデル」が提唱されている。 本研究課題の目的は,全反射高速陽電子回折(TRHEPD,トレプト)を用いて,Si(111)7×7表面の原子座標を高精度に決定することである。解析には,東大物性研の計算機センターで開発・公開された汎用表面構造解析フレームワーク2DMAT と,2DMAT用に開発された動力学的回折理論による順問題ソルバsim-trhepd-rheedを利用した。 2021年度はまず,2020年度に測定した「一波条件」の00回折スポット・ロッキング曲線を解析した。一波条件は各原子の表面に垂直な位置座標と占有率に敏感である。DASモデル,DFAモデルの文献の原子位置座標と占有率を構造パラメータに対する曲線を計算したところ, 両モデル共に測定曲線とのよい一致が得られた。これは,z座標毎の占有率に関して,両モデルの差がないためである。続いて,面内の原子配列にも敏感な「多波条件」のロッキング曲線の測定も行い,解析を進めた。その結果,実験結果とDASモデルとの間には良い一致が見られたが, DFAモデルとは一致が悪かった。この差は,上から3層目のSi原子配置の違いによる。これによって,Si(111)7×7再構成表面の基本構造として,DASモデルが正しいと結論した。 さらに,方位角の関数として測定した00スポット強度データ(方位角プロット)も測定した。今後ロッキング曲線と方位角プロットに対する構造パラメータの詳細な最適化を進めて,Si(111)7×7再構成表面の3次元原子位置座標の高精度決定を達成する。
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