本研究では、赤外顕微磁気円二色性装置を開発し、分子性導体試料等の二色性スペクトルを通して、スピン状態とエネルギーバンドの関係を解明することを目的として研究を実施した。実験は、大型放射光施設SPring-8の赤外物性ビームラインBL43IR/磁気光学ステーションで行った。最大±14Tまで印加可能な超伝導磁石と赤外顕微分光装置を組み合わせたステーションで、近赤外から遠赤外の一部(10000~200cm^(-1))をカバーする。試料はクライオスタットにより5Kまで冷却可能である。磁気光学効果によるスペクトル変化は非常に小さいため、光弾性変調器(PEM)をステーションに導入し、5000~800cm^(-1)の二色性スペクトルを高精度で測定した。測定対象は、赤外域に大きな二色性信号が報告されているCdSbと、強い電子相関により多彩な物性を示す分子性導体とした。特に分子性導体の単結晶は1mm以下と小さく、顕微分光が必要である。またこれらの物質では、電子物性を担う分子軌道によるエネルギーバンドが赤外線領域にあり、本研究で開発する赤外顕微磁気二色性装置で測定を行うことにより、スピン状態とエネルギーバンドの関係の解明が期待できる。測定装置の開発要素は、1)実験ステーションの高磁場磁石と顕微分光用光学配置でPEM装置や偏光特性に異常がないことを確認すること、2)PEMと、前後に挿入する直線偏光子の配置の検証を行うこと、3)PEMがカバーする波数帯域で二色性スペクトルを抽出するための測定手法と解析手法の確立すること、4)異方性がある固体試料の二色性スペクトル解析手法を確立することの4点であった。共同研究者である東北大学の佐々木孝彦教授、井口敏准教授の協力のもと、これらをクリアすることができ、CeSbと分子性導体について良好な結果を得ている。これらの結果を今後速やかに成果にまとめる予定である。
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