研究課題/領域番号 |
19K12645
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
永田 祐吾 東京理科大学, 理学部第二部物理学科, 助教 (30574115)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ポジトロニウム / 運動誘起共鳴 / コヒーレント共鳴励起 / 原子物理 / 磁気共鳴 / テラヘルツ波 |
研究実績の概要 |
電子と陽電子で構成される水素様原子のポジトロニウムは基底状態に超微細構造を持ち、その遷移周波数の測定はQEDのテストとして注目されている。 本研究では空間的に周期的な静磁場(静周期磁場)を利用して、ポジトロニウムの超微細構造の観測を行った。静周期磁場を生成する多層磁気格子は磁性体(炭素鋼)と非磁性体(銅)の箔を交互に重ね合わせ、ポジトロニウムを通すスロット穴を開け、永久磁石で着磁したもので、およそ0.1 Tの振幅の振動場を生成することができた。 2019年度の超微細構造共鳴遷移の測定実験データを解析した。スペクトルデータにはベースラインの傾きがあり、物理的な背景を検討し、ポジトロニウムのマルチヒットに起因するモデルを立て、実験結果を説明することができた。それを論文にまとめ投稿した。 磁気格子の周期磁場にはバイアス磁場があることが分かっており、ポジトロニウムはZeemanシフトを起こすことが明らかとなった。高精度分光を目指すためにこのZeemanシフトが問題となることが分かった。バイアス磁場は(1)磁気格子の作る周期磁場へ入射するポジトロニウムの位置よって大きく異なり、また、(2)同じ経路でも進行するにしたがってバイアス磁場は変化し、三次元的に複雑となる。(1)を解決するため、入射位置を制限することを考えた。(2)のためには、周期磁場が進行方向に向かって一様なバイアス磁場となるように磁性体箔の厚みを調整することが出来ることを計算によって見出した。分解能を向上させるため、さらに多層の場合の計算を行ったところ、200層以上多層に重ねたところで、Psの寿命が自然幅として現れることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の超微細構造共鳴遷移の測定実験データには、スペクトルデータにベースラインの傾きがあったが、物理的な背景を検討することで、ポジトロニウムのマルチヒットに起因するモデルで説明することができた。これにより、実験データの物理的な妥当性を示すことができ、当初の大きな目標である、超微細構造の観測を達成できたと言える。 また、超微細構造の高精度分光に向けて、磁気格子の周期磁場のバイアス磁場によるポジトロニウムのZeemanシフトが問題になることが分かった。 数値計算からバイアス磁場の構造を明らかにし、どのようにすればその影響を最小限にできるかを検討し、ポジトロニウムの入射位置を制限することや、磁性体箔の厚みを調整することによって解決できることが明らかとなり、今後の方針を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
実際にどのような構造であれば、計算で示された周期磁場を効率的に発生することができるか検討する必要がある。周波数は速度/周期長によって表されるため、高精度分光に向けて、速度と周期長の系統誤差を検討する必要がある。特に周期長は、金属箔の厚みのバラツキに影響されるため、周期を重ねるとある程度は収束するものの、できれば事前に較正できることが望ましいため、検討する。さらに振動場以外にも高精度分光に最適な周期場が無いか検討する必要がある。この実験の測定精度は周期場の質によって左右されるため、Ramsey共鳴を含め、有効な手法を十分に検討する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究にはNd:YAGパルスレーザーが必要不可欠であるが、2020年度にミラーの修理が必要となり、大きな出費となるはずであった。これは2020年度内に修理する予定であったが、そのレーザーが最近販売停止となって部品が品薄となり、さらに、新型コロナウイルスの影響でミラーの納品が2021年度にずれ込み、その修理費を次年度に繰越しなければならなくなった。
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