電子と陽電子で構成される水素様原子のポジトロニウムは基底状態に超微細構造を持ち、その遷移周波数の測定はQEDのテストとして注目されている。本研究では2020年度までに空間的に周期的な静磁場(静周期磁場)を利用して、ポジトロニウムの超微細構造の観測に成功した。静周期磁場を生成する多層磁気格子は磁性体(炭素鋼)と非磁性体(銅)の箔を交互に重ね合わせ、ポジトロニウムを通すスリット穴を開け、永久磁石で着磁したもので、およそ0.1 Tの振幅の振動場を生成することができた。磁気格子の周期磁場にはバイアス磁場があることが分かり、ポジトロニウムはZeemanシフトを起こすことが明らかとなった。高精度分光を目指すためにこのZeemanシフトが問題となることが分かった。 2021年度は、高精度分光応用を念頭に置き、高い周波数を目指すために微細加工性を考慮しながら、バイアス磁場を回避できる磁石構造の探索を行った。これまでの経験から、永久磁石を用いるとバイアス磁場の無い周期場を作ることはできる。しかし、デメリットとして、多くの永久磁石は脆いため加工性が悪く、機械加工による微細化が困難で、さらに熱に弱いため、熱が加わるような加工や実験的操作ができなくなる。可能であれば加工性の良い鉄などの軟磁性体を用いて磁石を多くの部分を構成できることが望ましく、数値計算による詳細な検討を行った。(1)従来と同様の、原子の進行方向に対して垂直に交互に発生する周期磁場の場合、スリットが1つのとき、バイアス磁場の無い周期磁場を生成できるが、スリットを2つ以上に増やした場合、磁場振幅が急激に減少することが分かった。(2)原子の進行方向を軸とする回転磁場の場合、スリットが1つのとき、バイアス磁場の無い周期回転磁場を生成できるが、スリットを2つ以上に増やした場合、(1)と同様に磁場振幅が急激に減少することが分かった。
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