研究課題/領域番号 |
19K12646
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
長壁 豊隆 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (80354900)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高圧力 / 中性子回折 / 電気分極 / マルチフェロイック / ミタニライト / 複合アルミ合金ガスケット |
研究実績の概要 |
本研究では、10GPa級の超高圧下で単結晶中性子回折(構造、磁性)と電気分極を同時測定するための技術の確立を目的とする。さらに、省エネルギー記録素子等の機能性材料としての応用も期待されているMn系マルチフェロイック物質にこれを応用する。未知の圧力誘起強誘電強磁性相を創生し、電気磁気交差相関性を精密に検証することを目指す。 本年度は、代表者が開発した単結晶中性子回折用対向ハイブリッドアンビル式高圧セル(HAC)を用いた焦電法による電気分極測定手法の開発を進めた。HACの試料空間は直径約1.0 mm、厚さ0.3 mmであるため、まず、この試料サイズでシグナルの観測が可能か確認するための準備を行った。具体的には、マルチフェロイック物質TbMn2O5の0.6mm×0.6mm×厚さ0.2mmの微小試料を準備し、その両面に電極を形成して金リード線を取り付けた。電極形成には、Dupount社製銀ペースト(4922N)を酢酸n-ブチルセロソルブで希釈したものを使用した。今後、研究協力者(東北大学多元物質科学研究所 木村教授)が所有する電気分極測定装置を用いてシグナルの確認をする予定である。 一方、焦電法測定において金リード線をHAC外に取り出すため、HACで不可欠なアルミ合金(JIS2017)ガスケットの表面を絶縁する必要がある。代表者は、ミタニライトと呼ばれる特殊な陽極酸化皮膜をガスケットの絶縁層として応用するという手法を考案し、5.5GPaまでの電気伝導度測定に成功している。但し、電気伝導度測定では高々数mV程度の耐電圧絶縁性があれば十分だが、電気分極測定ではポーリングのために500V程度の耐電圧性が必要となる。加圧下でも500Vの耐電圧絶縁性能を安定して持たせるため、本年度に、これまでの2倍以上の厚さ200μmを超えるミタニライトを成膜した複合アルミ合金ガスケットを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
5.研究実績の概要のとおり、マルチフェロイック物質TbMn2O5の微小試料および電極材料として実績のある銀ペースト等を準備し、電極付き試料を作成した。本年度末に研究協力者(東北大学多元物質科学研究所 木村教授)が所有する電気分極測定装置を用いてHACの試料サイズでのシグナルの確認をする予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で現時点で未測定となっている。一方、単結晶中性子回折用HACへ電気分極測定手法を導入するための技術開発については、HACを用いた電気分極測定に不可欠な厚い絶縁層を有する複合アルミ合金ガスケットの開発に成功している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に開発した複合アルミ合金ガスケットについて、500Vまでの高電圧を印可して高圧力下でのガスケットの耐電圧性能を測定する。今後、5.研究実績の概要で記載したTbMn2O5の微小試料のシグナル観測に成功し次第、新たに開発した本複合ガスケットを用いて高圧下電気分極の測定を開始する。また、中性子回折との同時測定を実施するため、LabVIEW上で焦電法による電気分極測定システムを構築し、これを研究用原子炉JRR-3に設置された中性子分光器制御システムに組み込む。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、7.現在までの進捗状況で示した様に、研究協力者(東北大学多元物質科学研究所 木村教授)が所有する電気分極測定装置を用いてマルチフェロイクス物質TbMn2O5について、HACの試料サイズでのシグナルの確認をする予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響のため出張(茨城県東海村~宮城県仙台市)が不可能となり、当初予定していた旅費が未使用となったため。次年度全体の使用計画としては、本年度に準備したTbMn2O5の微小試料に関する試験測定を改めて実施するための旅費とともに、焦電法による電気分極測定システムを構築するためのソフトウェア製作費用や電気分極測定システムに必要なピコアンメーター(KEITHLEY 6487)の購入費用として使用する。
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