研究実績の概要 |
中性子非弾性散乱(INS)実験による実空間ダイナミクス解析手法の確立と物性研究への応用を本研究課題の主目的と定め、研究開発を進めてきた。 実空間動的構造因子G(r,E)は、INS実験で得られる動的構造因子S(Q,E)をフーリエ変換することによって導出が可能であるが、正しいG(r,E)を得るためにはできるだけ広い運動量-エネルギー(Q-E)空間をカバーしたS(Q,E)を取得することが必要である。しかしながら、無限に広いQ-E空間をカバーするS(Q,E)の取得は原理的に不可能であり、より高い入射エネルギーを用いた高分解能・高強度のINS実験が要求されるが、この実験はJ-PARCの大強度中性子ビームを以ってしても困難である。このような問題意識をもとに、INS実験で得られるS(Q,E)二次元データマップを一枚の画像と見立て、最大エントロピー法のアルゴリズムを利用して、十分に広いQ-E空間をカバーする仮想S(Q,E)から実空間ダイナミクス解析を実現させることを本研究課題で提案している。 2019年度は、構造と格子振動の詳細が良く知られているニッケル粉末を標準試料として選び、INS実験によりQ-E空間のカバーレンジを系統的に変化させたS(Q,E)を複数個取得した。これらのS(Q,E)からG(r,E)をそれぞれ導出して解析を行った結果、実空間ダイナミクス解析における適用可能性とその限界について重要な知見を得ることができた。 また、従来のT0チョッパーは回転数の上限が低いために、高い入射エネルギーの中性子フラックスを大きく減じることとなっていたが、回転数の上限をさらに高くすることができれば、この減少は抑えることが可能である。これまでに開発を進めてきたT0チョッパー高速化は、2019年度に大きく進展し、回転数の上限を25Hzから100Hzにまで上げることに成功した。
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