研究実績の概要 |
中性子非弾性散乱(INS)実験による実空間ダイナミクス解析手法の確立と物性研究への応用を本研究課題の主目的と定め、研究開発を進めてきた。 実空間動的構造因子G(r,E)は、INS実験で得られる動的構造因子S(Q,E)をフーリエ変換することによって導出が可能であるが、正しいG(r,E)を得るためにはできるだけ広い運動量-エネルギー(Q-E)空間をカバーしたS(Q,E)を取得することが必要である。しかしながら、無限に広いQ-E空間をカバーするS(Q,E)の取得は原理的に不可能であり、より高い入射エネルギーを用いた高分解能・高強度のINS実験が要求されるが、この実験はJ-PARCの大強度中性子ビームを以ってしても困難である。このような問題意識をもとに、INS実験で得られるS(Q,E)二次元データマップを一枚の画像と見立て、最大エントロピー法のアルゴリズムを利用して、十分に広いQ-E空間をカバーする仮想S(Q,E)から実空間ダイナミクス解析を実現させることを本研究課題で提案している。 2021年度は、2020年度までに整備した機器を用いた中性子非弾性散乱実験を実施し、研究目的の測定試料として挙げていた石英ガラスと圧縮石英ガラスの動的構造因子S(Q,E)データを取得した。このデータを元に、実空間動的構造因子G(r,E)への変換を行い、解析の妥当性を評価してきた。この評価により、G(r,E)への変換においては、バックグラウンドを正確に差し引き、真に試料由来のS(Q,E)データを取得することの重要性が顕著となった。この知見を受けて、さらなるバックグラウンド低減に向けた努力を加速している。
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