研究実績の概要 |
中性子非弾性散乱(INS)実験による実空間ダイナミクス解析手法の確立と物性研究への応用を本研究課題の主目的と定め、研究開発を進めてきた。 実空間動的構造因子G(r,E)は、INS実験で得られる動的構造因子S(Q,E)をフーリエ変換することによって導出が可能であるが、正しいG(r,E)を得るためにはできるだけ広い運動量-エネルギー(Q-E)空間をカバーしたS(Q,E)を取得することが必要である。しかしながら、無限に広いQ-E空間をカバーするS(Q,E)の取得は原理的に不可能であり、より高い入射エネルギーを用いた高分解能・高強度のINS実験が要求されるが、この実験はJ-PARCの大強度中性子ビームを以ってしても困難である。このような問題意識をもとに、INS実験で得られるS(Q,E)二次元データマップを一枚の画像と見立て、最大エントロピー法のアルゴリズムを利用して、十分に広いQ-E空間をカバーする仮想S(Q,E)から実空間ダイナミクス解析を実現させることを本研究課題で提案している。 2022年度は、正しい構造モデルを得ることが困難な非晶質物質の構造研究に広く用いられている、分子力学法(MM法)を援用した逆モンテカルロ(RMC)計算コードを改造し、分子軌道法を援用するRMC計算コードの開発に取り組み、水分子の最適化構造の計算を行ったところ、妥当な計算結果が得られた。今後、本手法のネットワークガラスへの適用を進めるとともに、中性子非弾性散乱データにも合わせこむ計算手法の構築を行う。
|