研究課題
当初計画通りに、全反射高速陽電子回折(TRHEPD)装置内で比較的簡便に試料作製可能なアナターゼ型TiO2(001)(4×1)表面(阪大・湯川助教より提供)について、TRHEPD測定を行って実験データを取得した。また、構造未解決であるアナターゼ型TiO2(101)表面、アナターゼ型TiO2(100)表面についても、本予算で整備した試料準備チェンバにおいて表面清浄化のノウハウを確立した。これら試料は、超高真空を破らずに試料搬送できる「トランスファーベッセル」を用いて、汚染なくTRHEPD装置に運搬され、必要な全てではないものの実験データ取得に成功した。また並行して、データ駆動科学的手法を取り入れた構造解析をアナターゼ型TiO2(001)(4×1)表面に対して行った。具体的には、鳥取大・星准教授らを中心に開発され、最近リリースされた汎用構造解析ソフト「2DMAT」(https://www.pasums.issp.u-tokyo.ac.jp/2dmat/)を用いてフィッティング解析した。2DMATは、候補となる構造モデルを大域的に検索する「グリット検索法」と、偏微分をもちいない高速な最適化手法である「Nelder-Mead法」を併用して、これまで手計算で行われていたフィッティング解析を、汎用PC上で高速・高精度に自動で行うことができる。また、スパコンを用いて各原子位置座標パラメータの感度解析を行い、原子配置の不確かさの定量的な議論も可能である。こうした解析を行った結果、アナターゼ型TiO2(001)(4×1)表面に対して提案されていた様々な構造モデルのうち、Ad-molecularモデルと呼ばれる原子配置が、実験結果を説明できると分かった。これについて、成果投稿を準備している。また、関連するTRHEPD構造解析の成果について、物理学会・表面学会・陽電子科学会などで発表した。
2: おおむね順調に進展している
当該年度に計画していた実験データの取得と、同時に予定していた解析プログラムの高度化は大きく進展した。これにより高品質なアナターゼ型TiO2(001)(4×1)表面の構造解析を進めることができ、構造決定に成功した。現在は、光照射や雰囲気環境下における試料調整が可能な試料準備チェンバの整備を進めている。作業は概ね順調に進んでおり、準備完了次第、反応環境下に置ける表面モルフォロジー変化についての研究を進める。
まずは、清浄なアナターゼ型TiO2(101)(1x1)表面とアナターゼ型TiO2(100)(1xn)表面について、2DMATによる構造解析を進め、(反応前の)清浄表面の原子配置を精度良く決定する。続いて、紫外線照射により表面原子配置の変化が起こると議論されているアナターゼ型TiO2(101)(1x1)表面に注目し、試料準備チェンバ内に作り出した光照射下や雰囲気環境下において測定試料を作製する。ここでは産総研・平川氏の協力の下、試料作製条件を最適化する。この試料に対してTRHEPD測定を行って、疑似的な反応環境下における表面モルフォロジー変化の有無を、原子スケールレベルの構造的視点から精緻に明らかにする。
試料基板材料・消耗品の一部購入を次年度に持ち越したため、その購入に充てる。
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