研究課題/領域番号 |
19K12653
|
研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
木村 敦 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主幹研究員(定常) (60465979)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | タンパク質 / ペプチド / 量子ビーム / 架橋 |
研究実績の概要 |
本研究では、量子ビーム照射がタンパク質の1次構造及び高次構造に与える影響を定性・定量的に明らかにし、架橋タンパク質ゲルの物性(膨潤度、硬さ、粒径)変化の要因を解き明かすことで、量子ビーム架橋タンパク質を利用した医療・創薬応用研究の深化に繋げることを目的とする。具体的には、①アミノ酸組成を調節したモデルタンパク質を合成し、その②量子ビーム架橋ゲルの1次構造を各種化学分析法(酸分解法、Edman法、蛍光標識HPLCなど)により詳細に明らかにする。さらに、③量子ビーム架橋タンパク質の各種分光分析を行い、②の分析結果と対比させながら2次構造および3次構造の変化を明らかにする。本研究成果は、先行する量子ビーム架橋タンパク質を利用した医療・創薬応用研究の深化に繋がる。 研究目的に基づき、量子ビーム照射がタンパク質の高次構造に与える影響を定性・定量的に明らかにするため、令和元年度はモデルタンパク質の合成を行う。タンパク質に含まれるアミノ酸残基の中でも、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジンは水の放射線分解で生成するOHラジカルとの反応速度定数が大きく、架橋因子の候補として考えられる。また、タンパク質はアミノ酸残基であるプロリン、グリシン、ヒドロキシプロリンなどの含有量によって、2次構造であるαヘリックスもしくはβシート構造を形成することが報告されている。したがって、1次構造および2次構造に影響を及ぼすアミノ酸残基の含有量を適切に制御したモデルタンパク質の合成が目標となる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゼラチンの放射線架橋部位は、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジンである可能性が高い。そこで、これらのアミノ酸残基とゼラチン中に最も多く存在するグリシンを用いて、アミノ酸残基の種類・含有率の異なるペプチドを分子設計し、固相合成法により合成した。固相合成法は、側鎖を保護したα-アミノ酸を不溶性樹脂担体に順次に結合させてペプチドを合成する手法である。合成したペプチドはHPLCにより分取・精製を行い、LC-MSにより不純物が含まず、設計通り合成できていることを確認した。 フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジンを含む3種のペプチド水溶液にγ線を照射したところ、白濁がそれぞれ観測された。一方で、放射線照射により2量化反応が起こらないグリシンを含むペプチド水溶液では、白濁が起こらなかった。さらに、動的光散乱測定により53.6~255 nmの粒径を有するペプチド粒子の形成が確認された。以上より、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン残基はゼラチンの放射線架橋要因物質であることを明らかにした。また、フェニルアラニンを含むペプチドが最も低線量で多量体化したことや反応速度論的な解析から、フェニルアラニン残基がゼラチンの架橋に最も関与していると結論づけた。
|
今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、令和元年度に合成したフェニルアラニン、チロシン、ヒスチジンの含有量の異なるモデルタンパク質を量子ビームにより架橋し、酸分解法および蛍光標識HPLC法によりアミノ酸組成を明らかにする。量子ビーム照射により生成する架橋点と考えられるアミノ酸二量体の分析には、LC-MSを用いる。さらに、タンパク質の量子ビームの架橋反応における速度論的解析はESR法およびパルスラジオリシス法を用いて行う。 令和3年度は、プロリン、グリシン、ヒドロキシプロリンの含有量の異なるモデルタンパク質を量子ビームにより架橋し、円二色性分光、FT-IR、ラマン分光により分析することで、タンパク質の2次構造の変化を調べる。さらに、XRDおよびNMRにより量子ビーム架橋タンパク質の3次構造の分析を行う。 一連の研究成果に基づき量子ビームによるタンパク質の物性(生分解性、硬さ、粒径など)変化の要因を考察し、量子ビーム架橋に適したタンパク質の分子設計指針を提案することで、先行する量子ビーム架橋技術を利用した応用研究にフィードバックする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった分子動力学ソフトウェアの代替品を他部署において使用できることとなったこと、および参加予定であった国際会議が中止となったため、次年度使用額に差額が生じた。 差額に関しては、研究を進めるための消耗品の購入、国際学会参加費用および旅費、論文執筆の校正費用、および論文投稿費用に充てる予定である。
|