研究課題/領域番号 |
19K12655
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研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
保井 晃 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 分光・イメージング推進室, 研究員 (40455291)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光電子分光 / 磁性材料 / 磁気物性 / 放射光 |
研究実績の概要 |
本研究は、放射光を用いてスピントロニクスデバイス中の磁化分布解析を可能にする、可変磁場印加条件下での硬X線光電子分光(HAXPES)計測技術の開発を行うことを目的としている。本年度は磁場印加システムの設計、および、ネオジム磁石を用いた着磁によるフィージビリティスタディを行った。 磁場印加システムは、電磁場解析ソフトウェアであるPerMagを用いて設計を行っている。ソフトウェアの操作に慣れるまでに時間を要したが、現在は複雑な本システムの設計を行うまでに至っている。設計を進める傍らで、ネオジム磁石着磁によるフィージビリティスタディを行った。実験はSPring-8 BL09XUのHAXPES装置を用いて行った。着磁に用いたネオジム磁石は表面磁束密度0.3 Tを有するものである。そのとき、試料上での磁場は0.2 Tであった。試料には非磁性のAu薄膜を用いた。高い入射光エネルギーを用いることで、光電子の運動エネルギーが高くなり、磁場が光電子に与える影響を低減できることから、BL09XU HAXPES実験において最も高エネルギーである9 keV近傍の8.94 keVの入射光を用いて実験を行った。その結果、0.2 T磁場印加条件下においても、HAXPESアナライザーに付属の偏向電子レンズを用いて電場を印加することにより、光電子の計測に成功した。つまり、この実験から0.2 Tまでのあらゆる試料の光電子計測を実現できる可能性があることがわかった。ただし、電磁石は永久磁石に比べ漏洩磁場が発生しやすいことを念頭に今後も開発を続けていく。なお、このフィージビリティスタディの結果をHAXPESの第一人者が集まる国際会議であるHAXPES2019、さらに、持続性社会のための材料とシステムに関する国際会議ICMaSS2019において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁場印加システムの設計に用いる電磁場解析ソフトウェアの操作に慣れるのに時間を要したため、システム製作には至っていない。しかしながら、フィージビリティスタディにより、0.2 T磁場印加下の非磁性試料のHAXPES計測に成功し、設計の指針を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的である磁場印加中その場光電子分光測定技術を実現させる。そのために、小型電磁石による試料着磁、および、試料付近から発生する漏洩磁場キャンセリング機能を有する磁場印加システムを開発する。今年度に行ったフィージビリティスタディの結果も参考にし、開発を進める。来年度は試作機を完成させ、それを用いたHAXPES計測を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
磁場印加システムの設計に用いている電磁場解析ソフトウェアの操作に慣れるまでに時間を要し、試作機の設計が遅れてしまったため、予算の繰り越しを行います。来年度に設計を完成させ、試作機を用いた実験を実施します。
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