研究課題/領域番号 |
19K12666
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
新井 竜治 芝浦工業大学, デザイン工学部, 教授 (20389810)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 籐家具 / 籐工芸 / 籐製品 / 籐椅子 / 山川ラタン / コスガ / カザマ / 籐竹 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、近現代日本における籐家具の「デザイン」「技術」の全容を体系的に明らかにすることである。2019年度は、近現代日本を代表する籐家具メーカーである、山川ラタン、カザマ、コスガ、今枝ラタンが所蔵する歴史的資料(旧製品カタログ・アルバム・籐家具現物など)の閲覧・借用・撮影・スキャン・コピーなどを実施して精査した。また各社の代表者・取締役への聞き取り調査を実施した。またJHBS 2019, IFFT2019に出展した籐家具メーカーの新作展示品を視察した。また昭和戦前期に洪洋社が発行した『近代家具装飾資料』全47集に収録されている百貨店の新作籐家具(主に白木屋・髙島屋)を全数精査した。合わせて、本研究の重要な既往研究である大塚長四郎『籐工芸』(誠文堂新光社:1939年)の記述及び籐家具の図・写真を精査した。成果は以下のとおりである。 (1)昭和戦前期の百貨店における籐家具のデザイン・技術・用途について新たな知見を得た(論文)。特筆すべき知見として以下の点を挙げる。昭和戦前期の前半までは、籐家具の骨組みは竹材であり、それに皮籐/芯籐を巻き付けていた。細い丸籐は構造補助材であった。そのため全体形状は角型であった。ところが、昭和戦前期後半(昭和10年代:1935年頃以降)になると、骨組みに太民籐材(直径24-30mm程度の太い籐材)を曲げて使用するようになった。そのため全体形状が丸みを帯びたものになった。 (2)山川ラタンの沿革と、同社の籐家具のデザインと技術の特質についても明らかにした(学会発表)。特に重要な点は、同社は外部/社内デザイナーによる籐家具のデザイン開発に努め、良質なデザインは海外・国内において高く評価されたこと、あらゆるインテリアに適合する籐家具の品種を開発したこと、丸籐・芯籐・皮籐などのあらゆる籐材の材料的特性と力学を熟知して、卓越した造形を実現したことである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の当初の研究計画では、3ヶ年度に亘り、籐家具メーカーと、百貨店・家具小売店とを平行して、順次調査する予定であった。しかし、2019年度は、近代・現代日本における主要な籐家具メーカー数社の資料調査を最優先事項とした。その結果、山川ラタン、カザマ、コスガ、今枝ラタンという主要籐家具メーカーの資料収集・初期調査及び検討は終了した。この内、山川ラタンの沿革とデザインと技術の概要については学会発表を実施した。そして、籐家具のカザマの沿革・デザイン・技術・販売戦略の概要については、2020年度日本デザイン学会大会で報告する予定である(in print)。また、籐家具のコスガの沿革・デザイン・技術の概要については、2020年度日本建築学会大会で報告する予定である(in print)。それから、昭和戦前期の百貨店の籐家具についての文献資料の調査研究も終えて、学術論文「昭和戦前期百貨店における籐家具の技術・デザイン・用途」として発表した。 このような進捗状況のため、小規模な籐家具職人(地方及び都内)、並びに、全国の百貨店史料館などへの訪問調査が後回しになった。実は、2020年3月には、地方の小規模の籐家具職人数名への個別訪問調査を予定していた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、この調査を延期せざるを得なかった。2020年度は、これらの小規模の籐家具職人、百貨店史料館などへの訪問調査及び研究を実施する予定である。 すでに初年度において、昭和戦前期百貨店の籐家具についての調査研究、及び、主要な籐家具メーカー各社の籐家具に関する資料の調査・検討を終えるところまできた。このことから、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、新型コロナウイルスの影響が沈静化し次第、2019年度に後回しにした、小規模な籐家具職人(地方及び都内)、並びに、全国の百貨店史料館などへの訪問調査を実施する予定である。また、「現在までの進捗状況」に記したとおり、籐家具のカザマの沿革・デザイン・技術・販売戦略の概要について、2020年度日本デザイン学会大会で報告する予定である(in print)。また、籐家具のコスガの沿革・デザイン・技術の概要について、2020年度日本建築学会大会で報告する予定である(in print)。そして、2019年度日本デザイン学会大会で口頭発表した山川ラタンの沿革・デザイン・技術についても含めて、これらの研究を学会誌の論文としてまとめて、順次投稿する予定である。さらに、昭和戦前期の百貨店で販売された籐家具よりも廉価で大量に販売された籐家具について、なお一層の調査が必要であると考えられるので、商工省の統計、籐家具職人の養成学校の資料、当時の籐家具職人の手記、戦前期の籐家具工房の型録などの資料を精査する予定である。それから、近代・現代日本の籐家具の特質は、同時代以前の海外の籐家具との比較をとおしても明らかにすることができる。2020年度以降、近代・現代の海外における籐家具のデザインと技術に関する既往研究文献を積極的に入手して精査を実施する予定である。以上、2020年度はこれらのことを実施して、最終年度である2021年度の実績報告書の発行に繋げて行きたいと考えている。 なお、2020年度の研究計画は、全世界的規模で蔓延する新型コロナウイルスの感染拡大の状況によっては、修正・変更せざるを得ないことが予想される。その場合、最終年度(2021年度)末までに、当初の計画がすべて実行できるように、適宜予定を組み替えることも視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】次年度使用額(177,777円)が生じた主な理由は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う移動の自粛である。本研究課題の主な研究方法は、籐家具メーカー・籐家具職人工房を訪問して、所蔵されている籐家具のデザインと技術に関する資料を閲覧・撮影して、合わせてインタビュー調査させていただくことである。2019年度夏季休業期間中には関東近郊の籐家具メーカーの訪問調査をある程度実施した。そして、春季休業期間中に全国各地の籐家具メーカー・籐家具職人工房を訪問する計画であった。ところが、1918-20年のスペイン風邪の大流行以来の「百年に一度」の疫病が発生する事態となり、春季休業期間中に予定していた全国訪問調査は断念せざるを得なかった。 【使用計画】新型コロナウイルス感染症の終息が見通せない現状では、2019年度断念した全国調査を2020年度に実施できるかどうか定かではない。もし終息するのであれば、2020年度に全国調査を実施する。もし終息しないならば、最終の2021年度まで持ち越すこととする。その他、日本の籐家具の特質を海外の籐家具との関係から明らかにするために、海外の文献を収集して調査する。これも航空便が90%削減されている現況では確約できないが、その方向で鋭意努力する。
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備考 |
新井竜治「日本の籐家具デザインの歴史的研究」『特別教育・研究報告集』芝浦工業大学連携推進部, 151-154, 2018
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