研究課題/領域番号 |
19K12666
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
新井 竜治 芝浦工業大学, デザイン工学部, 教授 (20389810)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 籐家具 / コスガ / カザマ / 籐竹産業 / 進駐軍家族住宅 / Paul T. Frankl / 西京丸 / 籐製三つ折り寝椅子 |
研究実績の概要 |
2021年度は、大正・昭和戦前期の代表的籐家具である籐製肘掛椅子「西京丸」と籐製三つ折り寝椅子の由来、及び、太平洋戦争直後期の進駐軍家族住宅の籐椅子デザインの由来について明らかにして、その概要を日本デザイン学会大会・日本建築学会大会で報告した。概要は以下のとおりである。 (1)大正・昭和戦前期に日本全国の籐家具工房で製作された西京丸・海老椅子・三折寝台・長寝台・角型/円型卓子等の原型が、19世紀後半に対米輸出していた香港の籐家具工房 Sang Mow のカタログ(ca.1870-85)の中に見つかった。西京丸の名称は、1915年、名古屋・畑市商店が、この籐製肘掛椅子を貨客船西京丸に納品したことに由来する。また、台湾椅子とは材料費・工賃が安価な台湾で製作された西京丸であった。さらに、籐製三つ折り寝椅子は冬場の収納に便利で一世紀以上継続して日本で製作販売された。 (2)1940年代末から50年代にかけて進駐軍家族住宅に納品され、対米輸出もされた、日本製(コスガ・カザマ・籐竹産業)の籐製ソファは、1930年代中頃以降全米で流行した Paul T. Frankl デザインの籐製ソファの同等品であった。進駐軍C.P.O.担当官がこのデザインを採用した理由は、当時のアメリカ人にとって憧れであったスクエア・プレッツェル型肘掛付き籐製ソファを占領下日本の籐家具工場に作らせれば、双方の利益になると判断したからである。 また2021年度は、これまで収集した資料を読み解き、戦後日本における籐家具のデザイン・技術の特質を明らかにする作業を実施した。また幕末・明治期の古写真・引札・型録類を網羅的に収集調査して、同時期の籐家具の形状を明らかにする作業も実施した。 また2021年度後半、新型コロナウイルス感染症が小康状態になった時期に、延期してきた地方の籐家具職人への訪問調査を実施した(大阪市・広島市)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症のため、籐家具職人工房への訪問調査が大幅に遅れたため、研究期間の1年間の延長を申請した。それ以外はおおむね順調に進展している。 2021年度は、「籐製肘掛椅子「西京丸」・籐製三つ折り寝椅子の由来」について日本デザイン学会大会で報告した。また「進駐軍家族住宅の籐椅子デザインの由来」について日本建築学会大会で報告した。 2021年度は、これまで収集した資料を読み解き、戦後日本における籐家具のデザイン・技術の特質を明らかにする作業を実施した。その結果、興味深い知見が得られた。それらの知見は、「全国籐製品新作品評展示会の特質・意義・問題」として、2022年度日本デザイン学会大会で報告する予定である(in print)。また「日本の籐家具にみるモダニズムとポストモダニズム」として、2022年度日本建築学会大会で報告する予定である(in print)。 また2021年度は、幕末・明治期の古写真・引札・型録類を網羅的に収集調査して、同時期の籐家具の形状を明らかにする作業も実施した。そこで得られた知見は、「幕末・明治期の籐家具デザイン」(仮題)として、2022年度日本インテリア学会大会で報告する予定である。 本研究では、近現代日本を通して長期間籐家具を製作してきた代表的籐家具メーカーであるコスガ・カザマ・籐竹・山川ラタン、及び東京・名古屋・大阪ほかの籐家具工房のカタログ・チラシ、戦前期百貨店で開催された新作籐家具展示会の写真、幕末・明治期の古写真などを具体的証拠資料として、幕末期・明治期・大正期・昭和戦前期・終戦直後期・戦後期にわたる日本の籐家具のデザインと技術の特質・変遷・背景をおおむね明らかにすることができた。 未完作業として、すでに収集してあるが取りこぼしている資料の精査分析、総論の執筆・各論の修正・報告書の作成が挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に記したとおり、2022年度は「全国籐製品新作品評展示会の特質・意義・問題」について日本デザイン学会大会で報告する予定である(in print)。また「日本の籐家具にみるモダニズムとポストモダニズム」について日本建築学会大会で報告する予定である(in print)。さらに「幕末・明治期の籐家具デザイン」(仮題)について日本インテリア学会大会で報告する予定である。 2022年度は、すでに収集してあるが取りこぼしている資料の精査分析を実施する予定である。そして、「近現代日本における籐家具のデザインと技術の体系化」の総論を執筆し、各論を修正して、報告書を完成させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大のため、2019年度・2020年度に引き続き、2021年度後半まで、地方の小規模籐家具職人工房への訪問調査を延期せざるを得なかった。また、収集した資料の精査分析にも取りこぼしが生じた。これらにより、報告書の作成が遅れてしまった。そのため、報告書の印刷・発送代として残しておいた費用が繰り越しとなった。 2022年度は、取りこぼした作業を完遂して、報告書の執筆・印刷・製本・発送を実施して本研究を終える予定である。
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