研究課題/領域番号 |
19K12668
|
研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
近藤 存志 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (00323288)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | エルサレム会議 / モダン・デザイン / デザイン史 / 20世紀建築 / 都市計画 |
研究実績の概要 |
初年度(2019年度)は、本研究課題が設定した3つの「核心をなす問い」のひとつ「エルサレム会議とは何であったか?」について中心的に扱った。 エルサレム会議は、1969年、エルサレムの平和的発展をモダン・デザインによる市街地の整備・美化・拡張の観点から議論する国際的枠組みとして発足した。同会議には、建築家やデザイナー、デザイン史研究者をはじめ、神学者、法律家、教育者など諸分野から国籍の異なる100名以上の委員が招聘された。デザイン関連諸分野からは、ルイス・カーン、アリエ・シャロン、フィリップ・ジョンソン、ブルーノ・ゼヴィ、バックミンスター・フラー、ヴェルナー・デュットマン、イサム・ノグチ、ヤコブ・バケマ、ペドロ・ラミレス・バスケス、ローレンス・ハルプリン、マックス・ビル、ニコラウス・ペヴスナー、リチャード・マイヤー、ルイス・マンフォードらが委員として名前を連ねた。 初年度は、エルサレム会議を、政治的、民族的、宗教的諸対立の解決に貢献できる「デザインの可能性」を模索する試みとして捉え、会議の全容とその功績の総合的な把握に努めた。 本研究の構想と準備の過程では、エルサレム会議の議論に重要な役割を果たしたぺヴスナーの言説に注目してきたが、初年度の研究においてもぺヴスナーが残したコメントや文書、書簡等に引き続き注目した。20世紀の西洋建築史・デザイン史の動向を多角的に研究したぺヴスナーの視点に軸を置くことで、エルサレム会議が20世紀建築・都市計画・デザインの変遷史に占める位置づけ、役割について評価、解釈できると考えたからである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、おおむね順調に進展している。 本研究課題の遂行に必要不可欠なエルサレム市の諸機関での一次資料の収集は、2019年度に実施することはできなかったが、2件の国際会議での発表を行った。 7月、セルビア・ベオグラードで開催された国際美学会(International Congress of Aesthetics)において、エルサレム会議の全容と意義に関するデザイン史的研究を発表した。 9月には、福岡で開催された第3回アジア・デザイン史論国際会議(ACDHT 2019 Fukuoka)において、エルサレム会議での議論に指導的な役割を果たしたニコラウス・ペヴスナーのデザイン思想を理解することを目的にペヴスナーの青年期の主張に注目した発表を行った。 2019年度に実施した研究の一部成果は、南アフリカのヨハネスブルク大学芸術・デザイン・建築学部での国際会議 Disturbing Views: Visual Culture and Nationalism in the 20th and 21st Centuries(2020年4月23-25日)において、‘Sir Nikolaus Pevsner's Resistance to Authoritarianism in Twentieth-Century Architecture: A Study of the Jerusalem Committee’と題して発表することが決まっていたが、新型コロナウイルスの感染拡大にともない同国際会議は中止となった。また2019年度の研究成果は、2020年9月(欧州)および11月(中東)の2つの国際会議での発表に応募中であったが、4月初旬審査段階を前にそれぞれ開催中止が発表され、今後の成果発表計画の見直しの必要が生じている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、本研究課題が掲げた3つの「核心をなす問い」、すなわち「エルサレム会議とは何であったか?」「国際的枠組みにおいてデザインを議論したエルサレム会議の意義とその成果は何であったか?」「エルサレム会議の提言とその現代的意義は?」のそれぞれについて、同時に考察と執筆を進める。 エルサレム会議の全容把握については、特にバックミンスター・フラー、ルイス・マンフォード、フィリップ・ジョンソン、デニス・ラスダン、モシェ・サフディの建築論、都市計画論、デザイン論に焦点を当てながら継続する計画である。そして、①国際的な枠組みの下に、社会的な現実問題をデザインによって解決しようとしたエルサレム会議の意義とその成果、②「グローバル時代のデザイン活動・デザイン研究」を予見するエルサレム会議の先駆性、の2点についてそれぞれ明らかにする予定である。 そのうえで、国際的知見を集約しながらモダン・デザインによる集合住宅群の建設や景観整備等を通して政治的・民族的・宗教的な諸対立を抱えるエルサレムの近代化を具体的に模索したエルサレム会議を、冷戦期の建築界に他に類例を見ない野心的な試みとして歴史的に評価したい。 具体的な研究の実施方法としては、現地での一次資料の収集と考察、研究成果の発表を併行して行っていきたいと考えている。本研究課題の遂行に必要不可欠な、現地エルサレム市の諸機関での一次資料の収集が、現時点でまだ実施できない状態にあるため、今後、新型コロナウイルスの感染状況の収束を待って是非実施したいと考えている。また、2020年度開催予定であった国際会議が相次いで中止・延期を発表していることから、研究成果の発表を2021年度に集中して行うことをめざし、準備していきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
南アフリカのヨハネスブルク大学芸術・デザイン・建築学部で開催される国際会議(2020年4月23-25日)での研究成果発表を行う予定であったため、また当初初年度に予定していたエルサレムでの一次資料の収集を次年度以降に実施しなければならなかったため、一部研究費を次年度に使用することとした(その後、ヨハネスブルクの国際会議は新型コロナウイルスの感染拡大にともない3月中旬に中止が決定された)。 新型コロナウイルスの感染拡大にともない、次年度に発表を計画していた国際会議についても既に中止・延期が決定されており、研究成果の発表計画は不確定な面が多いが、次年度使用額および翌年度分助成金は、現地資料収集と海外での研究発表に使用する計画である。
|