研究課題/領域番号 |
19K12668
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研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
近藤 存志 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (00323288)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | モダニズム / エルサレム観 / キリスト教 / シオニスト運動 / ヴァナキュラリズム / ニコラウス・ペヴスナー / モシェ・サフディ |
研究実績の概要 |
2020年度は、海外から招聘された学識経験者から成る国際的枠組みの中での、エルサレムの近代化をめぐる諸議論に注目した。 第三次中東戦争の停戦を受け、イスラエル人都市計画家たちの手によってモダン・デザインを基本としたエルサレム市の市街地の拡張・再開発計画が策定された。これに対し、エルサレムの近代化に国際的な知見を反映させるべく発足したエルサレム会議においては、エルサレムの宗教的伝統と記念碑性を強調する意見が大半を占め、モダン・デザインに基づく計画に対する批判が相次いだ。 イスラエル人都市計画家たちの目には、海外から招聘されたエルサレム会議のメンバーたちの見解は、キリスト教的伝統に基づく「新しいエルサレム」(ヨハネの黙示録3章12節他)の実現をめざす信念に過度に牽引されたものと映った。本来、モダニズムは合理主義、有用性、機能主義的思考と結びついた中世キリスト教建築の伝統から萌芽したと解釈することもできる。この点を考えると、モダニズムに基づく計画を拒絶し、エルサレムの宗教性を強調する姿勢を、イスラエル人都市計画家たちがキリスト教的エルサレム観と結びつけたことは興味深い。彼らのそうした考え方の根底には、モダニズムをシオニスト運動の伝統の中でイスラエルのヴァナキュラリティーと融合した合理的デザイン形態の系譜として捉える独特なモダニズム観があったと考えられる。 2020年度は、こうした〈イスラエル的モダニズム理解〉について、若くしてエルサレム会議のメンバーに招聘され1970年以降のエルサレムの諸開発事業に重要な役割を果たすことになったユダヤ系カナダ人建築家モシェ・サフディのモダニズム観を手掛かりにして解釈することを試みた。その成果は、Society of Architectural Historians北米建築史家協会の2021年モントリオール大会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナウイルスの感染拡大によって、2020年度に予定されていた国際会議での研究発表2件(採択済み)が中止となるなど、本研究課題の成果発表が予定通りに実施できていない。また、イスラエルおよび欧米への渡航禁止、現地研究機関の閉鎖や行動制限等の影響で、海外の研究機関で予定していた一次資料の収集が未だ行えていない。本研究課題の遂行に必要不可欠な現地エルサレムでの調査も実施できていない状況であり、本研究の遂行には大幅な遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
現地での一次資料収集および調査が可能となるまでは、二次資料に基づく考察と部分的な成果発表を継続する。2021年度は、本研究課題が掲げた①「エルサレム会議とは何であったか?」、②「国際的枠組みにおいてデザインを議論したエルサレム会議の意義とその成果は何であったか?」、③「エルサレム会議の提言とその現代的意義は?」の3つの「核心をなす問い」から、「国際的枠組みにおいてデザインを議論したエルサレム会議の意義とその成果」に関する成果発表と、「エルサレム会議の提言とその現代的意義」をめぐる考察に特に注力したい。 国際学会の研究大会は、相次いで遠隔形式による開催に移行している。当面は、そうした現地に赴かない国際学会での研究発表を行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの感染拡大によって、2020年度に予定していた国際会議での研究発表2件が中止となり、海外での研究成果の発表を次年度以降に延期しなければならなくなった。こうしたことから、海外での研究発表にかかわる経費および渡航費を、次年度使用経費として予定している。また2020年度は、イスラエルおよび欧米への渡航禁止、現地研究機関の閉鎖や行動制限等の影響で、現地エルサレムでの調査および海外の研究機関で予定していた一次資料の収集が行えなかった。こうした現地での一次資料を中心とした研究・資料収集についても、海外渡航が可能となった時点で順次実施していきたいと考えており、関連経費を次年度に使用する予定にしている。
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