近年,わが国では異常気象や地震・津波,さらには大規模な噴火等による災害が頻発し,このコロナ禍の中において大規模地震の発生も懸念されている。このような多様災害から住民ひとりひとりが命と生活を守るため,正確な情報に基づいた避難可能な環境の整備が求められている。一方,我々が暮らす街では,日常的に利用する街路や友人の多い街路などは近く感じることが多く,逆に寂しく暗い街路,初めて通る道などは長く遠く感じることが多い。これは,認知空間における心理的距離と呼ばれるが,特にパニック時における避難の際に大きな影響があると考えられる。 本研究では,都市居住者の認知空間を認知マップとして取り出し,距離感に影響を与える要素について抽出し統計的に分析することで,居住者が認知するまちの姿と現実空間の「ゆがみ」を抽出することを目的としている。 研究では,年齢による発達段階を考慮して児童を対象としたアンケート調査(認知マップ調査)によりゆがみを抽出する方法を用いた。2019年度は,大阪府内の児童を対象として予備実験を行い,この結果をもとに対象地区の児童,約200名を対象として調査行った。分析可能なサンプルについて,描画要素の種類とこれらの色彩による差異,地区別の差異を集計するとともに,各個人の通学路と認知マップとGIS上の地図との割合の差異からゆがみを定量的に抽出した。2020年度は,得られたゆがみの調査データを基に,対象空間の特徴についてGISを用いた分析を行った。最終2021年度には,成人を対象とした比較調査を行い,それまで抽出された愛着度が高い地区とゆがみの関係を抽出した。さらに分析では,調査に用いた3つの対象地区におけるゆがみについて,今後の防災計画等に用いるための図面表現を検討した。我々の認知空間におけるゆがみをもとに,推奨される避難経路と避難場所の設定手法についての知見を得た。
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