本研究では,ISO/TS 12913-2で提案されている音環境の主観的評価尺度であるPerceived Affective Quality Scale(PAQS)が日本語化可能であるのかを,同ISO/TSで提案されているサウンドスケープの調査手法の1つであるサウンドウォーク,及び,防音室でのバイノーラル録音の音声を用いたビデオの視聴実験によって検討した。 最終年度の実施したサウンドウォーク,及び,視聴実験の結果を含め,研究機関内に実施した全ての音環境の主観評価の結果を比較検討し,また,環境心理学や感情心理学におけるRussellらを中心とするCircumplex modelの議論を参照することで,ISO/TSではPAQSがAffective Qualityの尺度であるとしているが,実際には,Affective Qualityの属性とCognitiveな属性の評価尺度が混在しているものとなっていることが明らかにした。 さらに,PAQSでは,Affective Qualityの評価構造を,環境心理学におけるCircumplex modelの初期の議論に基づき,pleasantnessとeventfulnessの2つの直交軸に加え,それらと45度の角度をなす2本の軸を想定し,それら4本の固定的な軸で表せるものであると考えている。しかし,近年のCircumplex modelの議論を受け,人(々)のAffective Qualityの評価は,意味の幅を持つ評価カテゴリーへの当てはまりの程度の判断によって行われてるというモデルを採用した方が当てはまりがよいことを論じた。 また,ISO/TSでは音環境の物理的特徴の把握に,ラウドネスを用いることを求めているが,本研究の範囲では積極的にラウドネスを採用する必要性は見られず,通常の騒音レベルの測定で十分であった。
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