研究課題/領域番号 |
19K12682
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研究機関 | 金沢美術工芸大学 |
研究代表者 |
荷方 邦夫 金沢美術工芸大学, 美術工芸学部, 准教授 (40347357)
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研究分担者 |
島田 英昭 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (20467195)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 共感性 / 人工物 |
研究実績の概要 |
2021年度は、デザインの評価がユーザの共感によって影響を受けることの検証のため、2020年度に作成した測定尺度の検証を行った。共感性を喚起する条件として、人工物の作成に関与した人物への共感性を測定し、この高低がデザインされた人工物の印象にどのような影響を与えているかについて検討した。 測定尺度は共感性の尺度として並行的共感、応答的共感を測定し、またデザインされた人工物の印象評価の測定をおこなった。測定の結果、共感性尺度との合成得点と各デザイン評価の項目の合成得点との間では、いずれも比較的高い相関が見られた。また、並行的共感、応答的共感のいずれが評価に影響するかという重回帰分析についても、それぞれの共感性の高低がデザインに対する印象項目への評価に有意に影響した。これらの結果から、共感性の高さはデザインの印象評価に関与するということ確認されたが、すべての項目について中程度の相関が得られ、人工物のデザイン評価に関するそれぞれの因子について、共感性がどのような因子に選択的に影響するかについては示差性のある知見は得られなかった。 当初の予定では、人工物の制作者への共感を、他のユーザーへの共感に変え、共感する対象の違いが評価にどのような影響をもたらすかについて検討する予定であったが、共感と人工物の印象との関連が包括的なレベルで確認されたこと以外の知見が見出しにくいこともあり、より実験的な手法を用いた検討が適切ではないかという課題も発生した。このことはまた、当初検討しているストーリー手法を用いた実験的検討にダイレクトに移行することができる可能性を示した。そこで2022年度には、ストーリー手法による実験的検討を行うことしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までの遅れに応じて、2020年度に実施予定であった調査(研究1・調査1)を行い、この結果を受け2021年度に行う調査へ移行する予定であったが、当初予定されていた予測の一部しか検証されなかったこともあり、2021年に予定していた研究(研究1・調査2)でも同様の結果となる可能性が示唆された。同時に、予定していた研究の後に続くよう計画されていた実験的検討を修正することによって、共感に基づく人工物の印象形成プロセスに関する認知的メカニズムについて、検証が可能であることが示唆された。 このような現在の状況から、2022年度に予定されている研究を一括して行うことによって、当初の研究の目的を達成することや、進捗の回復を行う可能性が示唆された。そこで2021年度についてはこの計画の修正を実施し、2022年度の早い時期に実験を実施すべく、その準備に切り替えた。この結果、当初の進捗よりは遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた研究結果を踏まえ、当初計画していた研究1は現在の時点で中心となる課題の解明が得られたとし、ストーリー手法を用いた実験的検討である研究2に取りかかることにする。研究では計画に示したようなストーリー手法を用い、異なる水準の共感を喚起する複数のストーリー間で、共感性の異なる参加者が、対象となる人工物のどのような印象要素に共感を示すかについて検討を行うこととする。 当初の計画(研究2・実験1および実験2)では、共感の対象が制作者であるか他のユーザーであるかという2つの条件から検討を行うこととしたが、研究計画の修正によって対象の異なりではなく、ストーリーによって表現される人工物の特性の異なりなど、印象形成プロセスに影響する要素の異なりを操作することによって、より認知的なメカニズムについて検討を行うことに切り替えることを予定している。 上記のような変更を行うと、当初の計画とは異なり、共感の対象となる社会的環境の影響についてはその解明が包括的なレベルに留まるものの、人工物の印象評価プロセスについてはより細かな要素まで検討が可能になる。実際のデザイン活動においては、制作される人工物がもつ要素に着目されることが多いため、この変更によってよりデザイン生成に関与する部分の解明が進むことを期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額の発生理由として、まず新型コロナウイルスの感染拡大継続のため、当初計画していた国内出張等の旅費の執行がなかったことが挙げられる。また、予定していた調査の実施を行ったが、1件あたりの支出額が当初の予定額を下回ったこと、さらに予定していた調査の実施を一部翌年度に行うことにしたため、執行額が予定よりも下回ったことがある。上記によって、次年度使用額が生じた。 繰り越された額については、2022年度に遅れた進捗分を実施するとともに、2022年度に予定されている予定を執行することにより、適正に執行されるものと考えている。
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