研究課題/領域番号 |
19K12683
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研究機関 | 静岡文化芸術大学 |
研究代表者 |
小濱 朋子 静岡文化芸術大学, デザイン学部, 教授 (50736014)
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研究分担者 |
柳瀬 亮太 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (10345754)
和田 和美 静岡文化芸術大学, デザイン学部, 教授 (40434534)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 環境デザイン / 環境心理 / 高齢者 / 公共空間 / 色彩・輝度 / 見落とし / VR / サイン計画 |
研究実績の概要 |
1.異なる6専門分野の8人のメンバーで研究目的を共有し研究を開始。実験の実施は①研究代表者(ユニバーサルデザイン)と学生(卒研予定3年)、②研究分担者(環境心理)と学生(修士予定4年)の4名が中心となって行い、実験に向けてのアドバイス・技術協力を①サイン計画の実践者 、②輝度解析ソフトの開発者、③画像制作の専門家、④メディアユニバーサルデザインの専門家で高齢者モニターの運営者の4名が行う。 2.事前研究:後期高齢者は、表示に頼って1人で移動することは少ない(諦めている)が、トイレの表示は重要であることがヒアリングを通してわかった。また、アイトラッキングを使った実験を通して、移動時の表示への依存度は個人差があり、「見落とし」に影響することを把握した。 3.「建築空間内における公共サインの視認性に関する研究」(卒業研究):地下空間で「見落とし」を生じそうな表示(トイレと非常口)のある8か所を実験対象に選定。360度カメラで撮影したVR画像を被験者に見せ、心理的評価を通して「見落とし」に関わる主な要素を明らかにした。また、高齢者は、視線より高い位置のサイン、着色のないサインに「見落とし」を生じる可能性が高いことも把握した。 4.「視点の高さの違いによる生活の中の快/不快の研究」(卒業事前研究):日常生活の中の様々な表示を視点の高さを変えて(110、140、170㎝)360度カメラで撮影しVRで見て、視点の違いによる以下の課題を抽出した。①部分的に見えていても全体がわからないと不快につながる、②視点が高いと視距離が遠くなるために結果的に見えにくくなる表示がある、③天井が低い、通路幅が狭いなど、空間に余裕がないと、特に高い視点の人には不快につながる、④床面の素材により輝度が高くなると不快を生じやすく、特に低い視点の人への影響が大きい、⑤天井照明の遮り方によって思わぬ快/不快が生じる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要は研究実績に記載の通り。 ■ステップ1.現状分析と仮説の構築:2019年4月~9月. 「見落とし」を生じやすい又は生じにくいと感じて撮影してきた公共空間を歩き、撮りためた画像を基に,「見落としを生じやすい表示物/空間デザインの条件」の仮説を構築した。360度カメラ,輝度解析ソフトに対応した一眼レフカメラ、アイトラッキングなども使いながら、 評価手法を検討し、VRを通してその画像の「見落とし度」を測定できる研究方法を考えた. ■ステップ2.プレ実験:2019年11月~2020年3月. 「建築空間内における公共サインの視認性に関する研究」(卒業研究)と、「視点の高さの違いによる生活の中の快/不快の研究」(卒業事前研究)を行い、着目すべき要点と課題を見出した。 2019年8月には研究に関わる全メンバーが集まり研究の目的を共有した後、要所要所で必要なメンバーが研究に関わりつつ、2020年3月には、1年間の進捗の確認と今後の研究に向けての課題を洗い出し、次年度の計画につなげた。
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今後の研究の推進方策 |
1.「見落とし」の定義:先行研究を検討し、「見落とし」に関わる定義や、人側、環境側の様々な要因を整理したが、事例集はまだ着手できていない。撮りためた画像を基に、静止画だけでなく、360度カメラの画像も使ったライブ感のある事例集がつくれないか、紙媒体だけでなく、グーグルフォトなどを使ったアーカイブもできないかなど、2020年度に検討をすすめる。 2.本実験は、実験室実験と360度カメラを使ったVR評価の両面を中心とし、さらに現地での評価も加えた3本柱で検討。①視点の高さを変えて評価(車いす:110㎝、高齢者140㎝、長身者170㎝)、②対象の表示をトイレとし、有彩色と無彩色で比較、③表示の背景の輝度、煩雑さなどの要件を押さえる。実験環境については、実績のある研究者に具体的に相談して進める予定。実験室実験は、静岡文化芸術大学の天井が動かせ、照明のコントロールが可能な空間演出実験室で行う。実験に作る内照式のサインの制作が重要。サイン制作の専門家の中村氏の指導を仰ぎながら静岡文化芸術大学の工房で試作を進める。 3.360度カメラで撮影した画像をVRで見ると、実際よりも明るく見え、評価に大きく影響を与える。心理評価だけでなく、VRの実験では、実際の明るさ感とVRで見る明るさ感をどのように整合性をとるか、論拠をおさえる必要がある。実際の見えとVRの見えの輝度を等しくするためにはどのような手順を踏むべきか、視覚の心理物理の専門家を訪ねて検討する。(現在検討中) 4.研究に使う機材として、360度カメラが有効と考え、リコーの最上位機種のZ1をそろえた。具体的な画像の作成方法を、画像制作の専門家の和田先生の指導を仰ぎながら、学生とで進めていく。 5.関連する先行研究の検討もすすめ、信州大学での卒業研究「立方体を用いた天井吊り下げ型サインの提案と地図情報による経路誘導の検証」なども含め、実験や事例集に反映する。
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次年度使用額が生じた理由 |
オリンピックの実施に向けて、セキュリティが厳しくなるため、本実験の準備(具体的には地下空間の写真撮影)を行う必要があった。そこで、評価用画像の撮影に向けて、①360度カメラ:リコーのTHETAの最上位機種Z1、撮影用アクセサリー、画像記録メディア等(約18万円)、②画像を再生するヘッドマウントディスプレイ:オキュラスゴー2台(約15万円)、③撮影、テスト画像検討のための出張旅費(約7万円)、④作業補助者、専門家への謝礼(約10万円)などの費用が前倒しで必要とした。
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