本研究は,グラフィックデザインに対する人々の共通する感覚,あるいはグラフィックデザインにおける定番技法を糸口として,脳血流計測によってデザイン成果物の審美的側面の評価を行うこと,あるいは行うことが可能かを検討する.グラフィックデザインの世界においては,デザイナにより提案された「美しさ」を実現するとされているノウハウが多数存在する.本研究において,これらの技法を吟味し,技法を沿った「良い・美しいデザイン」と,技法に沿わない「悪い・美しくないデザイン」に接した被験者の脳血流の差について検討したい.以上の目的のもと,デザインのノウハウの一例として,R.Willamsの「ノンデザイナーズ・デザインブック」に記述されている「良いデザイン」4つの基本原則を取り上げ,それに基づいたデザインモックアップを作成,基本原則が人間に与える影響を,近赤外線分光法による脳機能計測によって定量的に検討した.被験者は東京都市大学の学生 14 名とした.脳機能計測の結果は,「良いグラフィックデザイン」と「悪いグラフィックデザイン」の9枚中4枚の有意差が認められた(p < 0.05).「悪いグラフィックデザイン」は,酸素化ヘモグロビン濃度変化量が上昇しているものが多く,宣伝フライヤーの「悪いグラフィックデザイン」では,前頭葉前額部左右どちらも酸素化ヘモグロビン濃度変化量が増加していた.対照的に「良いグラフィックデザイン」では,酸素化ヘモグロビン濃度変化量は低下しているものが多く見られた.悪いグラフィックデザインは基本原則が守られていないため,書いている内容を理解するのが困難であること,適切にレイアウトされていないことに対する,感覚的な気持ち悪さの影響が,酸素化ヘモグロビン濃度変化量の増加に影響していることが示唆された.
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