研究課題/領域番号 |
19K12690
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
前川 正実 京都女子大学, 家政学部, 准教授 (80753920)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アブダクション / 探求の理論 / デザイン推論 |
研究実績の概要 |
査読付き学術論文「デザイン活動のプロトタイピングにおける推論過程 ─パースの探求の理論に基づくデザイン推論のダブルサイクルモデル」では、パースが論じたアブダクションをそのままデザイン類論過程にも適用できるのかという点について主に海外の複数の先行研究をレビューし、デザイン推論では、観察される事象は問題として存在が否定されるべき事象にもなりうる事、また所望される未来の状態を前提とするので、前提が事実に基づいておらず、しかも変化しうるため、デザイン推論にはパースの理論をそのまま適用できず、アブダクション過程を2種類に区分して捉えられることを論述した。これはデザイン過程のプロトタイピングにはその目的および性質の点で2つの異なる種類(「探索のサイクル」と「解決のサイクル」)が存在することを示しており、これらの二つのサイクルにおいて異なる内容のメンタルモデル変容が生じている可能性が考えられる。「アブダクション―演繹―帰納」の推論過程との対応に基づくことで、「アイデアの発散と収束」、「水平思考と垂直思考」といったような2項に区分された思考活動の中身について詳細に考察するためのフレームになりうる。 また、これまで一般的に示されてきた「仮説の検証による真偽判定」は、「解決のサイクル」においては該当するが、「探索のサイクル」においては必ずしも該当するとは言えない。前提条件の変更を伴う推論はコンセプトを精緻化するための情報/材料を得るための過程と捉えるべきであり、これは思考実験過程ともいえる。「探索のサイクル」は、目標が不明確な状況下や段階で目標を発見するための推論なので、新たなサービス、システム、仕組みの考案に至るための検討の向きを定める機能を持つ。「探索のサイクル」に着目することによって、学術的な視座の拡がりに加え、産業界での新サービスや新製品の発案を促進する手法の開発にもつながり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究これまで行ってきた検討には、まず、不便益性のデザイン方法がある。これは本研究のテーマであるサイクリックアブダクションにおいてデザイナーのメンタルモデル変容を要求するデザインテーマであることから、生体データ取得実験での好適なデザイン課題になりうること、また、そのときの変容の向きすなわち創造すべき何らかの価値(ユーザーが享受できる)の内容を予め把握することが目的であった。この目的に対しては、少人数の実験を通じて一定の成果を得た。そして本年度は上述したように、主に論文レビューの考察からデザイン推論過程の分析的理解を導き出した。 また本年度は、実験協力者の生体データを取得する機材として用いる予定であるNIRSのデータが持つ制約および計測方法、データ解釈方法等についての文献調査を実施し、知見を得た。 以上から、本研究の目的Aの達成は途中段階にあり、目的Cについては被験者を用いた実験を実施する直前の段階にある。目的Bはこれまでの検討から、目的Cのデータ分析を通じて達成することが望ましいと考えられる。 これまで「デザイン推論におけるサイクリックアブダクション」自体の分析的理解に注力した研究を実施し、この点では一定の成果を挙げられたと考えるが、生体データの取得においてはNIRSに関する知見の蓄積が必要であったことに加え、COVID19により被験者を用いた実験の実施が困難であったことから、計画通りの進捗とはなっていない。
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今後の研究の推進方策 |
生体データ取得に関する知見はほぼ獲得したため、COVID19の影響が小さくなって被験者を用いた実験が可能になれば、研究を進捗させることは可能になると考える。 しかしながら、これまでの検討を通じて、本研究の調査と検討の対象となり得る範囲は計画時の想定よりも広がっているので、焦点を絞って進める必要がある。現時点では、従来考えられてきた仮説検証サイクルに該当しない可能性がある「探索のサイクル」に軸足を置き、「解決のサイクル」との比較、また「制約編集モデル」との対応性等を通じて研究を進めることにより、学術的および社会的にも価値がある成果を期待できる。デザイン推論におけるサイクリックアブダクションの過程の複雑さを分析的に把握できたことから、デザイン推論過程の高度化についての研究を想定よりも精緻かつ効果的に行うことが可能になると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19の影響により被験者実験が行えていないので謝金支出が生じていない。また、学会等での発表機会が無いため旅費支出が生じていない。実験結果の分析と考察により生理データの取得方法やアプローチ、実験の範囲や対象などを検討することになるが、その端緒となる被験者実験を実施できていないため、物品支出も残っている。 今後、COVID19の影響が減じれば、被験者実験を実施して謝金支出を行い、研究成果を公表するための投稿費や掲載費、また旅費としての支出を予定している。
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