研究課題/領域番号 |
19K12691
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研究機関 | 大阪樟蔭女子大学 |
研究代表者 |
山崎 晃男 大阪樟蔭女子大学, 学芸学部, 教授 (40243133)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 認知課題 / 気分状態 / BGM / 覚醒的音楽 / 鎮静的音楽 |
研究実績の概要 |
当該年度にはまず、BGMが課題遂行に及ぼす効果を測定するための実験で使用する認知課題の選定を行った。解決に要する思考のタイプ(収束的思考と拡散的思考)および操作される思考の様式(言語と図形)を掛け合わせた4種類49問の課題を作成し、予備実験を行って、BGMによる影響を測定する実験課題として適当な難易度をもつ課題10問を選定した。 続いて、選定された課題を用いて、BGMが実際に認知課題および気分状態に影響を及ぼすかどうかを検討する実験を実施した。先行研究を参考に、BGMとして覚醒的音楽と鎮静的音楽の2種類を選定し、音楽なしの条件を加えた3レベルの音楽条件の下で、4種類の認知課題の遂行状況および課題遂行前後の気分状態を測定した。その結果、音楽条件は、認知課題の遂行および気分状態に対して、有意な主効果を及ぼさなかった。しかし、音楽に対する各参加者の快不快の評定値に基づき、音楽高評価群と音楽中低評価群に分けて分析をしたところ、課題の種類に関わらず、音楽に対する評価が高い群はそうでない群よりも課題成績が有意に高かった。また、気分状態に関しても、音楽に対する評価が高い群はそうでない群よりも、肯定的な気分や平穏な気分が課題遂行後に有意に強くなっていた。さらに、特に平穏な気分に関して、音楽に対する評価が高い群では鎮静的BGMを聴取した時の方が覚醒的BGMを聴取した時よりも課題遂行後に平穏な気分が有意に強くなっていた。 これらの結果は、BGMとして用いられる音楽の客観的特徴によって機械的に課題遂行や気分状態への影響の仕方が決まるのではなく、音楽に対する聴取者の評価が重要な媒介変数となっていることと、音楽に対する聴取者の評価が高い場合に音楽は課題遂行や気分状態に肯定的な影響を及ぼす可能性があることを示しており、本研究にとってきわめて重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、当該年度には以下の3つの実験を実施する予定であった。実験①:「文章校正課題」「拡散的思考課題」などオフィスでの業務を模した複数のタイプの課題を作成し、適切な難易度と解決時間を検討する。実験②:実験①で作成した課題タイプとBGMのタイプとを組み合わせて、各タイプの課題遂行時に各タイプのBGMが課題成績とストレスレベルや気分に及ぼす効果を測定し、より大きな効果の見られる課題とBGMの組み合わせを見つける。実験③:ビッグファイブ性格テストおよび環境刺激敏感性尺度によって参加者の性格特性を測定したうえで、実験②の知見を踏まえて設定した認知課題とBGMを用いて、課題遂行時のBGMが課題成績とストレスや気分に及ぼす効果に参加者の性格特性がどのように影響するかについての予備的知見を得る。 実際には、①および②の実験を実施したが、③については実施できなかった。しかし、②において、BGMのタイプと課題のタイプの組み合わせよりも、BGMに対する聴取者の評価が重要な変数となるという新たな知見が得られた。これは、今後、研究を進めていくうえで、実験デザインそのものに影響を与える重要な知見である。今後の研究において、音楽への聴取者の評価を組み込んだ実験デザインを採用することで、本研究の目的達成に一段と近づくことが期待される。 また、当該年度には、次年度以降に実施する参加者の生理的データ取得のための機器(ウェアラブル心拍センサ)を購入し、その使用に向けた準備作業を開始した。この点も、研究の進捗状況の肯定的評価に寄与している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、BGMへの評価と課題遂行者の性格特性が課題成績とストレスレベルや気分に及ぼす影響について、ストレスレベルの客観的指標として生理的指標を導入して測定する実験(令和2年度)、予備実験を実施して得られた知見に基づき数段階の音量レベルを設定したうえで、課題遂行時のBGMの音量とBGMへの評価が課題遂行とストレスレベルや気分に及ぼす効果を、課題遂行者の性格特性と関係づけつつ明らかにする実験(令和3年度)、ここまでのすべての実験結果を踏まえ、実験室および実際のオフィスにおいて、BGMの音量とBGMへの評価、聴取者の性格を考慮したうえでBGMの効果を最適化していくデザインの検討(令和4年度)を行っていく予定である。 令和2年度は、特に課題遂行者の性格特性に着目するとともに、ストレスレベルの測定に心拍などの生理的指標を導入した実験を実験室で実施していく。しかし、新型コロナウィルスの流行とそれによる大学のキャンパス閉鎖という予期せぬ事態を受け、現在のところ実験を実施することが不可能な状況である。今年度の後半にはおおむね平常状態に戻ることを期待しているが、その場合でも、実験室を用いた実験の実施には感染予防のための細心の注意を払った対策が求められる。実験参加者と実験者が密とならない環境設定や実験器具等の頻繁な消毒、実験室の頻繁な換気などを実行していく。また、実験室実験が全く実施不可能な状態が続く場合には、ネットを介した遠隔実験についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、購入を予定していた心拍計(HRS-I)ではデータ解析のためにソフトのレンタルが必要であり、そのレンタル費用を予算計上していたが、実際に購入したウェアラブル心拍センサ(WHS-I)ではデータ解析のためのソフトが付属しているため、レンタル費用分が不要となった。これについては、次年度以降に実施する生化学的検査(唾液中のコルチゾール濃度の測定など)に要する委託費の増額(実験参加者の追加による)分に充当することを検討している。 具体的な使用計画としては、物品費としてウェアラブル心拍センサの追加購入費120,000円、旅費として226,000円、人件費・謝金として実験者補助人件費40,000円、その他としてコルチゾール分析委託費720,000円、合計1,106,000円の使用を予定している。
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備考 |
当該年度の研究成果については、2020年7月19日から24日にチェコ共和国のプラハで開催予定の国際心理学会議2020で発表予定(採択済)であったが、新型コロナの流行のため会議が延期となり、発表できなくなったことを付記する。
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