研究課題/領域番号 |
19K12693
|
研究機関 | 神戸芸術工科大学 |
研究代表者 |
佐野 浩三 神戸芸術工科大学, 芸術工学部, 教授 (50258175)
|
研究分担者 |
川井 広之 (かわいひろゆき) 神戸芸術工科大学, 芸術工学部, 教授 (10341017)
ばんば まさえ 神戸芸術工科大学, 芸術工学部, 教授 (00249202)
吉田 尚美 神戸芸術工科大学, 芸術工学部, 准教授 (90353044)
山本 忠宏 神戸芸術工科大学, 芸術工学部, 助教 (60441375)
長野 真紀 神戸芸術工科大学, 芸術工学研究科, 助教 (10549679)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | バナキュラーデザイン / 社会課題 / デザインプロセス / 沖縄 |
研究実績の概要 |
本研究では、地域固有のアイデンティティを反映したデザイン事象を「バナキュラーデザイン」と仮称し、社会課題に起因する包括的なデザイン行為のプロセスを具体事例から分析することで、社会課題デザインの基礎研究を目的とする。沖縄地方の相互扶助や社会包摂、産業・就労創出、歴史文化の形象化などに係る特徴的な活動事例と社会情勢との関係を観察し読み解くことで、社会的技術としてのデザインプロセスの根幹となる当事者の思考経緯と役割を明らかにする。 社会課題に起因する沖縄の「バナキュラーデザイン」に作用する要因を以下の3区分に整理し、調査分析を進めている。A:生活・コミュニティ要因(自由経済下での生活基盤の確保・補完・維持に関連する事象) B:社会・経済要因(不利、限定的な状況からの事業・雇用・就労創出に関連する事象) C:歴史・文化要因(地域特性や文化の形象、保有技術の展開に関連する事象) 本年度は、基礎研究で選定済みの主事例を対象として、現地調査と文献による歴史的経緯の集約、研究協力者との意見交換によって実態の精査を進めるとともに追加事例を選定した。Aの事例は、「共同売店」と マチグァー(市場)の歴史文献の収集と本島中部で現状の現地調査を実施し、今後の調査として当事者以外の支援事例の収集を行った。Bの事例は、「沖縄珈琲」を中心に不利な気候条件を克服する試みと産業化における課題の実態調査を実施した。また薬草やハーブを中心とした6次産業についても追加調査の対象とした。Cの事例は、石垣島と竹富島において「ミンサー織り」と「八重山上布」について現地で技術面と歴史的背景、現状の実態調査を行った。また「かりゆしウェア」においては、沖縄での普及経緯と生産の一端を担う兵庫県の地場産業である播州織での技術について調査した。 北谷の防波堤のペイント画が、護岸整備によって撤去されたことからその変化の状況を調査した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
9月、11月、3月に計画していた現地調査が、それぞれ台風、首里城火災、新型コロナウイルス感染症の影響によって中止や急な変更、規模の縮小を余儀なくされたことが遅延の大きな要因である。9月に集中した台風の影響は、現地での旅程変更によって私費で対応できた場合もあるが、予定していた本島北部の調査が中止となった。10月末の首里城火災により11月中旬の那覇での観光関連事例調査は自粛・見直しが必要となり、簡易な視察と文献資料調査、研究協力者とのミーティングに規模を縮小して実施した。新型コロナウイルス感染症の影響による移動制限により、3月の調査計画のうち石垣市は実施できたが、沖縄本島の調査はすべてが中止となった。 一方、現地調査が中止・縮小になった反面、文献による歴史的経緯・社会背景の調査、研究協力者との意見交換・情報提供、追加事例の選出に関しては充分な機会が得られ、予定以上の進展が見られた。個別の事例における分析作業は、確認作業としての現地調査が実施できていないことから照査・検証の段階で保留となっているが、事前調査としての成果は蓄積されている。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の影響の予見が困難であることから、全般的な文献調査は先行して進めながら当初の各年度計画を柔軟に見直し、下記要因別の継続事例と新規事例において現地対応が可能になった対象から優先して調査を集中的に実施する。分析としての思考プロセスの検討は、調査に進展が見られた事例別に仮説を立て、比較検証段階での事前準備として集約・共有する。研究協力者との情報交換は遠隔会議システムやメールの送受で継続可能な内容もあるが、地域間の移動制限が長引く場合には研究期間の延長も検討する。 A:生活・コミュニティ要因(自由経済下での生活基盤の確保・補完・維持に関連する事象)では、継続して「共同売店」と支援者の取り組み、地域の課題を反映したマチヤグヮー(日用雑貨店)、マチグァー(市場)による相互扶助・社会的包摂システムの事例収集を中心的な課題として進める。併行して共同店と一般商店の相違点、影響、他地域での応用事例調査に取りかかる。 B:社会・経済要因(不利、限定的な状況からの事業・雇用・就労創出に関連する事象)では、「沖縄珈琲」、「オキナワカカオ」、「薬草・ハーブ」を主事例とした 6次産業、小規模フェアトレード、産業創出の多元的な実践事例の調査と「ウージ染め」、「琉球ガラス」 を事例とした、リサイクル資源活用、就労創出、産業として定着した地域色のある特産品の成立過程の調査を実施する。 C:歴史・文化要因(地域特性や文化の形象、保有技術の展開に関連する事象)では、平安座島・北谷の護岸画、コザ絵巻、商店サイン、花ブロックなどの地域条件に由来する融合文化の表象としての事例における視覚的、技術的特徴の分析と社会背景の調査、また「かりゆしウェア」や伝統工芸等の応用に見られる歴史文化と現代ライフスタイルの融合事例の発祥から定着の経緯と社会実装のための手段の調査を実施する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
9月、11月、3月に計画していた現地調査が、それぞれ台風、首里城火災、新型コロナウイルス感染症の影響によって中止や急な変更、規模の縮小を余儀なくされたことが経費未執行の要因である。台風の影響は現地での旅程変更によって私費で対応できた場合もあるが、未執行経費の大半は首里城火災による観光関連事例調査の縮小・見直しと新型コロナウイルス感染症の影響による現地調査中止の旅費、現地での資料購入費である。 現地調査は、次年度において安全が確認され沖縄地方への移動制限が解除、調査受け入れが可能となった時点で実施するため、必要な経費である。また、沖縄地方での調査受け入れが困難な状況が継続する場合は、遠隔会議と研究協力者を招き研究会を実施することも考慮する。
|