費用便益分析は公共図書館設置や新規サービス導入のための政策的意思決定に資する有効なツールであり、国内外において一定の研究蓄積があると言えるものの、図書館の現場における実施事例は必ずしも多いとはいえない。これは図書館を対象とした方法論に関する理論的検討が十分に行われていないこと、ならびに、調査コストの問題が指摘される。そこで、本研究では、図書館を対象とした費用便益分析に関する理論的検討を行うとともに、図書館の現場において適用可能な標準的な手法を構築することを目的としている。 最終年度では、COVID-19の影響によって公共図書館への導入が促進された電子書籍サービスに対する市民の選好意識を明らかにするとともに、蔵書冊数、立地条件、飲食の可否といった公共図書館に関する他の属性との比較において、電子書籍への需要がどの程度であるのかを実証的に把握した。これまで、公共図書館においては、電子書籍サービスを導入するか否かが主要な論点であったが、COVID-19以降、導入後のさまざま実務上の論点、たとえば、他のサービスとの関係において、どの程度の規模の電子書籍コレクションを提供することが適切であるかといった問題について意思決定を行う必要がある。本研究では、ウェブアンケート調査を通じて収集した全国の図書館利用者・非利用者の回答データを用いて、コンジョイント分析を実施し、電子書籍サービスならびに他の属性に対する相対的重要度や支払い意思額を推計した。 このほか、研究期間を通じて、費用便益分析によって測定される公共図書館の需要の性質について検討することを目的として、図書館の設置や廃止、もしくは、サービス水準の多寡が、他の図書館や書店の売り上げ等にどのように影響するのかについて分析を行うとともに、公共図書館に関するさまざまな効率性指標を用いて、それらを最大化もしくは最小化する効率規模を推定した。
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