研究課題/領域番号 |
19K12704
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大場 博幸 日本大学, 文理学部, 准教授 (80523787)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 図書館 / 新刊書籍市場 / 古書市場 / パネルデータ |
研究実績の概要 |
公共図書館における所蔵や貸出が書籍市場にどう影響するのか、通常考えられているように売上にマイナスの影響を与えるのか、この疑問について検証する研究をおこなっている。サンプル書籍を選定し、パネルデータの収集を続け、加えて先行研究についての検討を行ったことが、今年度の実績となる。 第一に、サンプルとなる書籍の選定である。発行直後からの影響をみるために、2019年4-5月発行の書籍から600タイトルを選んだ。タイトルの選択は、2019年4月に行った。発行情報源としてAmazon.co,jpを用い、一般書籍からほぼランダムに抽出した。ただし、小説・文学作品と漫画、写真集、雑誌などは省いた。 第二に、データの継続的な収集である。売上と所蔵の関係をみるために、毎月のデータを比較する必要がある。このため、サンプル書籍それぞれの、2019年5月~2020年3月までの毎月の売上部数データ、公共図書館所蔵数と貸出数、Amazon.co,jpにおける順位、古書価格、古書供給数のデータを収集した。毎月の部数はオリコン社から、所蔵数と貸出数についてはカーリル社から、Amazon.co,jpにおける順位と古書供給数については機械的にデータを得ている。 第三に、図書館所蔵と書籍市場の関係を整理するために、先行研究の調査を行った。これについては、第105回全国図書館大会三重大会の中の、出版流通委員会の分科会企画において現時点での研究動向についてまとめ、発表する機会を得た。その際、重要な先行研究の発表者と討論・交流することができた。なお、内容の一部は『教育學雑誌』56号に論文として発表した。 第二と第三の件については、今後も継続する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度はまだデータを収集している途上であり、計画していたデータの採取を優先してきた。一方で、まだ分析を施してはいない。 研究は、出版直後から2年半の期間におよぶデータを用いるものであった。2020年4月時点で11ヵ月分のデータを得ている。このようにデータ収集はまだ完了しておらず、道半ばであるために、分析を始めるにはまだ至っていない。 しかしながら、データは定期的に入手できており、プロジェクトの遂行自体に大きな不安があるわけではない。このため、おおむね順調に進展していると判断した。 懸念がもたれることは、2020年3月期から続くCOVID-19の影響である。自粛要請のため、一部地域で図書館が閉館し、また大手書店も閉店していることが多い。その影響は、本研究の結論を例外的なものにしてしまう恐れがある。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、データ収集の継続と、加えて取得済のパネルデータ一年分をもとに統計分析の実施を行う予定である。 第一にデータ収集の継続である。これについては2019年度と同様である。 第二に、中間報告としてパネルデータに基づいた分析を行い、日本図書館情報学会の秋季大会で発表する。12ヵ月分のデータがあることによって、時系列での販売部数と図書館の所蔵や貸出動向との十分な比較がすでに可能となっている。特に、新刊書籍の販売において重要だとされる、発行直後の3ヵ月の動向が含まれていることは大きいと言える。 ただし、【現在までの進捗状況】で記したように、2020年3月期から続くCOVID-19の影響は論点となる。まずはデータを確認して、その位置づけを考えたい。さらに、この時期を特別に取り出して、閉館状況と販売部数と比較するという、スピンオフ的な研究を施すこともできるかもしれない。
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次年度使用額が生じた理由 |
26万5千円が残された理由は二つある。 第一に、データ販売業者に対する支払いのうち、2020年2月と3月分に相当する部分が、年度末の会計処理の都合上翌2020年度に持ち越されたためである。 第二に、計上していた旅費を使用しなかったためである。これは、研究発表は行ったものの別のルートで旅費を充てることができたことと、できるだけ費用をデータ入手に充てたいと考えていることを理由とする。 なお、2020年度は、2019年度分の図書館所蔵数と貸出数のデータの一括購入を予定している。通常の販売部数データの入手と併せて、そちらにも研究費を充てる予定である。
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