公共図書館における所蔵や貸出が、新刊書籍の売上にマイナスの影響があるか否か、またあるとすればその程度はどのくらいか、これらの疑問を検証する研究をおこなってきた。データの収集は、2021年11月に終了した。現在、その分析結果をまとめ、成果報告書を執筆している。 分析の結果、次のような結論を得た。全国公共図書館における所蔵によって、新刊書籍の売上部数は、非常に小さい範囲で低下するか、またはほとんど影響されない。影響の有無は、関連する変数として何を投入するかによって変わる。低下させるとしても、その影響は所蔵一冊が増加するにつき実売部数の1%以下となるにすぎない。 なお、コロナ禍でのデータ収集となったため、当初の研究計画から二つの点で変更がある。 第一に追跡するデータを研究期間の半ばに変更した。当初は2019年5月から600タイトルの書籍の売上データ等を2年半追跡する予定であった。しかし、2020年の途中から新たに別のタイトルを600点選定し、2020年9月から2021年11月までデータを取得した。最初のデータセットにおいて、コロナ禍に起因するデータの不備があったためである。このため、2019年5月からの11ヶ月分のデータセットと、2020年9月からの14ヶ月分のデータセットを得ることになった。 第二に、それぞれのデータセットの分析に際し、コロナ禍の影響を考慮した論理を組む必要がうまれたことである。2020年と21年には、紙書籍市場の売上の好転や電子書籍の急伸長、一方で図書館の閉館や利用制限、外出が控えられるといった、これまでとは異なる状況がもたらされた。すなわち、データ収集前に想定していた図書館と書籍市場間の関係は大きな影響を被ったのである。この影響をどのように分析に反映させてゆくかについては、まだ検討中である。
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