研究課題/領域番号 |
19K12709
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研究機関 | 仙台高等専門学校 |
研究代表者 |
谷垣 美保 仙台高等専門学校, 総合工学科, 准教授 (70369982)
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研究分担者 |
徳竹 亜紀子 仙台高等専門学校, 総合工学科, 准教授 (70552488)
北島 宏之 仙台高等専門学校, 総合工学科, 教授 (70311553)
中山 まどか 仙台高等専門学校, 総合工学科, 准教授 (20721989)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 和算 / 算額 / 現地調査 / 赤外線撮影 / 翻刻 / 宮城県 / データベース / オープンマップ |
研究実績の概要 |
① 谷垣は可能な限り和算関連の研究会に参加しているが、今年度はコロナ禍のため全国和算研究大会等は開催されなかった。県を跨ぐ和算講座にも参加を見合わせた。「数学と和算の勉強会」は第1・3・4回がメールによる情報共有となり、9月20日の第2回のみ角田高等学校で開催されたので出席した。また第4回の報告集に、和算で用いられる技術だが現代の高校では教えない反転法を紹介する『小原温泉薬師堂奉納算額第一問を反転法で解く』を寄稿し、「宮城県高等学校数学教育研究会」の研究集録に掲載された。 ② 徳竹と谷垣は、宮城県内の現存算額の現地調査を可能な限り実施している。その際、本研究費で購入した専門機関向け赤外線カメラによる撮影を行っている。9月20日の「数学と和算の勉強会」後には勉強会参加者と共に、角田市の斗蔵寺の算額を調査した。今年度最大の成果は、明治8年に三瀧神社に奉納されたのち保管先が転々として行方不明になっていた算額を、白石市の萬蔵稲荷神社で発見したことである。一昨年から、本研究課題であるデータベース作成のために公民館や寺社等に電話調査を行っていたことが、情報提供に繋がった。萬蔵稲荷神社の算額調査の際、宮司に小原温泉のかつらやの主人を紹介してもらい、大正5年に小原温泉薬師堂に奉納され、旅館廃業後見ることができなくなっていた算額も、11月20日に調査することができた。また小原小中学校前において、小原地区全ての算額に関わる高橋円三郎と萬蔵稲荷神社の算額に関わる牛草英吉の石碑を確認した。 ③ 徳竹と谷垣は、萬蔵稲荷神社と小原温泉薬師堂の算額に関する調査概要、算額の問題に関する数学的考察、小原地区の和算文化に関する考察、翻刻、赤外線写真をまとめ『宮城県白石市小原地区の算額調査』として「仙台高等専門学校名取キャンパス研究紀要」に発表した。 ④ オープンマップデータベースについては北島が研究を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
徳竹や谷垣は、ペースを落とすことなく研究を続けることができた。しかし想定外のコロナ禍のため、和算分野における最大の成果発表・情報交換の場である全国和算研究大会等が中止になってしまった。また東北では宮城県が特に感染者が多く、宮城より和算研究の盛んな岩手・福島・山形に行くことも憚られた。和算関連の蔵書の多い本校の図書館も学外者の利用禁止となり、図書館に訪れる研究者との情報交換もできなくなった。参加予定であった和算関連の大会や講座はオンライン開催をしておらず、仙南で開催された「数学と和算の勉強会」への参加と、研究者間のメールによる情報交換のみとなってしまった。さらに宮城県内でも我々のいる仙台圏は最も感染者が多く、一方で算額は都市部から離れた地域に現存し、所有者も高齢であることが多いため、気軽な現地調査も躊躇われた。そのため感染が比較的落ち着いている時期に、本校から近い角田市と白石市の算額を調査するのみとなってしまった。進捗が大きく遅れてもおかしくない状況であったが、本年度、行方不明になっていた三瀧神社の算額二面のうち一面を発見したことは、和算研究上非常に大きな成果であるから「やや」遅れている程度であると評価した。この発見は本年度の成果というより、データベース作成のために一昨年から地道に調査を続けていたことが、本年度実を結んだ形である。途中段階であっても、本研究課題を進めること自体が、和算の研究のために意味があると確信できた。また我々が作ろうとしているオープンマップデータベースの有効性を証明する発見でもあった。我々の研究は学際的であるため、論文の投稿先の選定が難しいところだが、昨年度に続き本校の研究紀要には調査結果を発表することができたので、コロナ禍では最大限の研究ができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2年間、本研究課題を進めてきた実感として、現存する算額のデータベースの作成と、現物の調査、算額が奉納された背景の研究・内容の数学的研究は切り離して推進できるものではなく、分担して同時進行でやるしかないことがわかったので、今後もそのように進めたい。このうち現物調査に関してはコロナ禍の制約の中でやらざるを得ないが、宮城県内にある算額のうち、近年新たに発見されて研究文献に記録されていないもの・経年劣化が進み赤外線撮影や目視での確認が急がれるものなど、優先度の高い算額から順に、感染の落ち着いている時期を見計らって調査を実施する。調査予定の算額はリストアップ済みである。また本年度調査した小原地区の算額の問題に関し、紀要発表後に新たに和算書との関連が判明したので、まずそれについてまとめる。研究成果の公表手段について考えると、本研究課題は大会での発表が最も波及効果の大きい有効な方法であるが、当面そうした口頭での発表は見送らざるを得ないかもしれない。その分、各地の和算研究会で発行している会誌など、多くの和算研究者が目にするメディアへの投稿を積極的に行う。最終年度であるので、令和元年度・令和二年度は成果を報告できなかったオープンマップについても形にし、上述の研究成果とあわせ、まとまった形で報告したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額の計算を誤って、0より大きくなってしまっただけであり、特に大きな理由はございません。次年度は、この338円と次年度分の助成金を合わせて、算額の現地調査やその内容についての研究・オープンマップデータベースのデータの充実のために、必要な情報機器や和算関連の新刊書籍・古書を購入しようと計画しています。
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