研究課題/領域番号 |
19K12713
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
長澤 多代 三重大学, 情報教育・研究機構, 准教授 (30346944)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 情報リテラシー / 大学図書館 / 教員と図書館員の連携 / 情報共有 / 社会ネットワーク / 教職協働 / ケース・スタディ / アアルト大学 |
研究実績の概要 |
本研究では,大学教育における教員と図書館員の連携構築に関する研究の一環で,フィンランドのアアルト大学のケース・スタディを実施した。アアルト大学は,3つの大学(ヘルシンキ工科大学,ヘルシンキ経済大学,ヘルシンキ芸術デザイン大学)を統合して2010年に設立された新設の大学である。大学統合後の2016年には各図書館がOtaniemiキャンパスに移動し,中央図書館として統合されて学習センターと名称変更した。2018年には図書館組織を再編成して学習サービス,研究サービス,アーカイブ・サービス,デジタル・ITサービスの4つの部署による分割運営の体制を整備した。これはフィンランド初の試みである。 本研究の目的は,アアルト大学のケース・スタディをもとに,次に示す3つの研究課題を明らかにすることにより,アアルト大学における情報リテラシー教育のための教員と図書館員の連携の実態を明らかにすることである。①教員と図書館員はどのような社会ネットワークを構築しているのか,②①の社会ネットワークにおいて教員と図書館員はどのような情報を共有しているのか,③図書館の組織再編が①の社会ネットワークと②の情報共有にどのような影響を与えたのか。 2019年度には1名の図書館員への予備的な聞き取り調査によって背景的な知識を得るとともに,2020年度の聞き取り調査を含む訪問調査の計画を作成した。2020年度には2度の訪問調査を予定していたが,コロナ禍の終息を待って実施を見送り,大学教育における教員と図書館員の連携に関する既往研究の調査を中心に進めた。既往研究の調査結果については,2021年の図書館情報学の国際学会において口頭発表した。訪問調査については,事業終了時(2021年度末)までの訪問調査の実施は難しいと判断して,2021年度に教員と図書館員を対象としてオンラインによる聞き取り調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍により,当初の計画どおりに進めることはできなかったが,アアルト大学のオンラインによる聞き取り調査と既往研究の調査をもとに国際学会での発表を実現できたことから,「おおむね順調に進展している」と判断した。詳細については,以下のとおりである。 初年度の2019年度には,アアルト大学における教員と図書館員の連携の全体像を把握するために,2度の訪問調査を予定していた。だが,アアルト大学の図書館員(芸術デザイン分野の情報リテラシー教育の担当者)への集中的な聞き取り調査(2時間×3回),大学統合や図書館組織の分割運営に関する文献や報告書の調査をもとに基盤となる情報の収集にとどめた。 2020年度には聞き取りを含む2度の訪問調査を予定していたが,コロナ禍の終息を待って実施を延期した。その中で,2019年度に予備的な聞き取り調査をした図書館員に追跡調査となる聞き取り調査(2時間×1回,オンライン)を実施して,2019年以降の状況について情報を得た。訪問調査の準備に加えて,大学教育における教員と図書館員の連携に関する既往研究の調査を進めた。 最終年度である2021年度には,事業終了時(2021年度末)までの訪問調査の実施は難しいと判断して,6月から12月にかけて,アアルト大学の図書館員と教員を対象としてオンラインによる聞き取り調査を実施した。5名の図書館員及び1名の教員への聞き取りによって得られたデータを,既往研究の調査をもとに抽出した情報共有及び社会ネットワークの観点から分析し,図書館情報学関係の国際学会にshort paperとして投稿した。このshort paperは採択され,2022年5月に口頭発表する準備を進めている。既往研究の調査結果については,2021年9月に開催された図書館情報学関係の国際学会(オンライン開催)において口頭発表している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は2019年度から2021年度までの3年間の計画である。2021年度までの予算の一部を2022年度に繰り越し,2022年5月に予定されている国際学会での口頭発表に使用することとした。 アアルト大学では,2022年1月に情報リテラシー教育を担当する図書館員の再編成が行われた。これと並行して,教員を含む部局からの意見等も収集しながら情報リテラシー教育を見直し,2022年の秋学期から刷新した情報リテラシー教育を実施することを予定している。繰り越した予算でこの追跡調査を実施しようと考えていたが,十分な予算を確保できないことが予想されるために,この調査については今後の課題とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度から2021年度までの3年間にフィンランドのアアルト大学の訪問調査を予定していた。だが,コロナ禍のために訪問調査を実現できず,オンラインによる聞き取り調査に変更したために,旅費として計上していた予算を使用せずにいた。この予算の一部については,2021年度に実施した聞き取り調査によって得られたデータの逐語録を作成するために使用した。これに加えて,この調査によって得られたデータをもとに作成して投稿した論文(short paper)が採択されたために,この国際学会に参加して口頭発表するための予算として使用するために予算を繰り越すこととした。具体的には,2022年5月にノルウェーのオスロで開催が予定されている国際学会で口頭発表をするための旅費及び学会の参加費として使用する予定である。
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