研究課題
本課題の目的は、宋・元代の説文以外の小学書、具体的には北宋『復古編』に見える篆文字形が大徐本と異なる理由として、宋代の金石学の知見が持ち込まれた可能性を検討することであった。最終年度はこれまでに作成した『五音韻譜』字形表、『復古編』『增修復古編』字形表に加え、『續復古編』字形表を作成し、『李陽冰千字文』字形表、『考古圖釋文』と対比させることで、復古編類の篆文字形が大徐本と異なる理由について考察した。復古編類の篆文字形のうち、大徐本と違い、かつ、石刻資料字形や李陽冰千字文に符合する字形は復古編の附録「筆迹小異」に分類されるのに対し、より強く正誤を判定する附録「上正下譌」では石刻資料や説文旧本に由来すると思われる字形は殆ど無い。また同時に、釈字において李陽冰の説が引かれる部分も大徐本から間接的に引いたとしても説明できるものであり、説文旧本を直接参照したと断定できる部分は見当たらないことが分かった。またさらに、青銅器に見える字形(鐘鼎文)が石刻資料の字形より優先されている例も見当たらない。このことから、復古編類には確かに大徐本以前の字形が見えるが異体字資料としての扱いであり、それらがより正しいとする正誤規準ではないと言える。そこで、「上正下譌」の全項目に対して大徐本の六書情報と比べた結果、大半は六書に基づいて字形を改めていると解釈できた。元代の増補『續復古編』は一部の小篆字形を大徐本字形よりも石刻資料に近づけているが、図形部品を網羅的に修正してはおらず、また説文未収字も金石資料からではないと思われた。従って、復古編類は金石資料によって異体字の例を補充することはあるが、字形よりも六書を重視する態度と言える。また、異体字の典拠も唐代から知られる石刻資料が主で、宋代に整理が進んだ鐘鼎文を優先してはいない。復古編類は文字学の重点を篆文字形から六書に移す態度であったと考えられる。
上記のうち(5)は本課題の一環で撮影した画像データを資料所蔵機関側が公開しているwebページである。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 5件) 備考 (5件)
中国出土資料研究
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https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00052380
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https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00052382
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