2020 年度実施状況報告書

初期印刷本の書誌学的研究推進のための環境整備に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号	19K12720
研究機関	尚美学園大学
研究代表者	樫村雅章尚美学園大学, 芸術情報学部, 准教授(移行) (00338211)
研究期間 (年度)	2019-04-01 – 2022-03-31
キーワード	初期印刷本 / デジタル書物学 / 人工知能
研究実績の概要	当初の計画として、本年度は初期印刷本を利用する研究者らが自らの手で図書館の貴重書閲覧室で画像を撮影する場合の環境の調査や、撮影される画像の品質の評価を行うべく、初期印刷本を多数所蔵する海外の図書館における調査を活動の柱としていた。しかしながら、新型コロナウイルス感染症による世界的な社会情勢の変化により、海外への渡航が制限され、さらに調査対象候補としていた図書館への訪問の準備のための連絡等も憚られるような状況となり、ほとんど進展が得られなかった。また、昨年度着手した、初期印刷本の活字パターンに関連する研究への人工知能（AI）の技術の応用可能性の検証に関しても、新型コロナウイルスの感染拡大防止のためにとられたさまざまな措置、とりわけ勤務先の本務等において急遽求められることとなった授業のオンライン化への対応が極めて大きな負担となり、それ以外の業務や活動に時間を割くことが著しく困難な状況が続くこととなったため、本年度もその方面の活動における成果を、Webなどを通じて情報公開するには至っていない。一方、初期印刷本の研究者から、書誌学的研究の具体事例について情報の提供を受け、本研究がそうした研究の推進のためにどのようなところで貢献できるかを再確認し、さらに検討しなおす機会を持つことができた。これまでの進行状況や、社会情勢の現状およびこの先の見通しからして、当初の計画通りの成果を得ることは非常に困難であるため、初期印刷本の書誌学的研究を推進するための環境整備に資するという本研究の根本となる目的に今一度立ち返って、目標やアプローチの再設定を行い、成果をあげられるようにしていきたい。
現在までの達成度 (区分)	現在までの達成度 (区分) 4: 遅れている理由前年度の進捗の遅れにつながった事態は、年度の終盤になって収束しかけていたが、その時期から新型コロナウイルス感染症の世界的な流行が始まって社会情勢が大きく悪化し、研究の推進が著しく困難な状況が継続しているため。具体的には、勤務先の本務をはじめ教育分野の活動における要求（授業のオンライン化など）に優先的に応じざるを得なくなり、本研究に時間を充てることがほとんどできない状況が続いているため。また、海外への渡航が厳しく制限されており、出張による調査が事実上ほぼ不可能となっているため。
今後の研究の推進方策	新型コロナウイルス感染症の影響で社会情勢が変化していることにより、本研究を推進する上で、現在、おもに2つの大きな問題が生じている。1つ目は、授業のオンライン化や社会情勢の変化により発生している新たな他の学務などへの対応のため、勤務先での本務の遂行に必要となる時間や労働上の負荷が著しく増大しており、本研究に取り組む時間を確保することが困難な状態が継続していることである。もう1つは、海外への渡航ばかりでなく、国内の移動も制限される事態が続いており、貴重書を多数所蔵する図書館に協力を得て行う調査を、具体化することができないことである。すでに初年度から本年度にかけて、それらの原因で計画の実施が大きく遅れているうえに、新型コロナウイルス感染症の収束により社会情勢の安定や労働状況の改善がもたらされる見通しが立たない状況はまだしばらく続くものと予想され、当初計画したような形で成果をあげることは現実的ではないと考えられる。従って、単に遅れを挽回するというアプローチではなく、本研究の根本的な目的を念頭に、目標や実施計画を立て直して巻き返しを図る必要がある。そのためには、まず第一に、本研究に充てることのできる時間や精神的な余裕をしっかり確保できるような工夫を試みるようにしたい。その上で、出張を必要とする活動を大幅に縮小するなど、実現可能性を重視して研究の全体像を改めて描き直すことから着手し、補助事業期間の延長も視野に入れつつ、じっくりと着実に成果を積み上げていくことができるように環境を整えて臨んでいきたい。
次年度使用額が生じた理由	勤務先における本務をはじめとする優先せざるを得ない労働活動において、新型コロナウイルスの感染拡大防止へのさまざまな多くの対応を余儀なくされたことによる深刻な影響で、本研究の推進が著しく困難になり、計画の執行が停滞したことによる。本年度は海外への渡航をともなう調査への支出が見込まれていたが、実施はもとより準備も進めづらい情勢が続いており、次年度も調査を目的とする出張の経費としての支出は考えにくい状況にある。また、そうした調査の際に使用する機器等の準備についても慎重に対応を検討すべきであると考え、購入を留保してきたという経緯がある。本研究の当初の計画どおりの進行が事実上不可能な状況となっていることから、資金の使用計画を現時点で明確に示すことは難しいが、研究の根本的な目的にそった目標や実施計画の再設定にともなった実効性の高い支出を、その根拠や必要性を常に明らかにできるよう意識しながら行っていくようにしたいと考えてる。