研究課題/領域番号 |
19K12720
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研究機関 | 尚美学園大学 |
研究代表者 |
樫村 雅章 尚美学園大学, 芸術情報学部, 准教授(移行) (00338211)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 初期印刷本 / デジタル書物学 / 人工知能 |
研究実績の概要 |
これまで3年間にわたって本研究への取り組みを行ってきたが、そのうちの2年以上の長きにわたって、新型コロナウイルス感染症の流行を原因とする社会情勢の大きな変化による深刻な影響を受けてきた。初期印刷本の研究者が図書館の貴重書閲覧室で自ら撮影したような画像の品質や可用性および貴重書閲覧室における撮影環境の調査に関しては、昨年度から大きく変わることなく現地調査が困難な状況が継続していたことから、撮影に利用されるスマートフォンやデジタルカメラなどの機器に関する情報収集といったごく限られた活動にとどまり、本年度も整理した形で成果を公開できるまでには至らなかった。また、人工知能(AI)の技術を初期印刷本の活字認識に利用するための方法の模索や環境の構築に関しては、MNISTに代表される既存の文字データセットを対象として、書籍やWebサイトで公表されている文字認識処理手法の追試を複数実施できたが、勤務先の本務などの義務的な活動による負荷が本年度も甚大であり、本研究の遂行に継続的に時間を充てられなかったため、初期印刷本のデータを対象とするところまでの進展は得られなかった。一方、本研究と関連して、初期印刷本などの貴重書について過去に得た知見を整理していた過程で、貴重書とはどのような書物をいうのかに関する解説の着想を得て記事を作成し公表した。本研究を構想した段階ではまったく予見できなかった新型コロナウイルス感染症の流行の影響で、所定の3年間の補助事業期間内の研究実績が極めて限られたものとなったことは大変遺憾であり、当初計画したような内容の成果を得ていくことはいまも困難な状況にあるが、初期印刷本の書誌学的研究の推進のための環境の整備に資する、というこの研究のもともとの目的を果たすべく、活動を継続していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行による社会情勢の変化にともなって、主につぎの2つの点で、研究を推進するための環境が大きく悪化した状況が長く続いていることによる。まず、日本および他国の政府や自治体などによる行動規制等は以前より緩和される傾向にはあるものの、新型コロナウイルスへの感染の不安が十分に解消されたとは言えず、海外への渡航や国内での長距離の移動をともなう調査の実施が困難であること。もう1つは、感染拡大防止のための授業の形態の変更への対応など、本務をはじめとする教育分野や組織運営に関係する義務的な活動を優先的せざるを得ず、本研究に割くことのできる時間が極めて限られてしまったことである。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の影響による社会情勢の悪化は、本年度も大きく変わることなく継続しており、これまでの達成度の遅れの原因となったおもな2つの問題、すなわち、授業の実施形態の変更への対応や感染症対策に関連する業務への従事など、本務における負担の増大で本研究への取り組みに時間を確保できなくなったこと、および、移動の制限を受けたことで国内外の旅行をともなう調査が実施できなくなったことは、いずれもいまだに解消してはいない。また、社会情勢の好転や改善の見通しもまだ十分には立たない状況にあり、目標や実施計画の立て直しに時間をかけることができておらず、補助事業期間の延長を認められた現時点においてこの先の不安は小さくはないが、新型コロナウイルス感染症が収束に近づくことを期待しつつ、まずは本研究への取り組みに充てられる時間をしっかり確保できるように本務を中心とする諸活動の調整を行いたい。その上で、デジタル書物学的なアプローチによる初期印刷本研究の支援という本研究の本来の目標を見据えて、現状で把握できている実現可能性を考慮しつつ、研究の全体的な構想を練り直すことから着手していく。その際、初期印刷本の研究者から改めて最近の研究の状況などについて情報を得て、効果的な研究支援の実現につなげていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行による社会情勢の変化の影響を受けて、2年以上にわたって本研究の推進が著しく困難な状況が続いており、当初の計画を実行できずに活動が長期間停滞してきたことによる。特に、海外への渡航をともなう調査のための出張や機材の調達を含む準備を具体化できず、調査を必要とする活動が実現できていないため。昨年度からこうした状況にほとんど変化がなく、先行きも不透明であるため、いまの段階において今後の資金の使用計画を明示するのは難しいが、不確定な要因への対処を留意しつつこの研究の本来の目的にかなった短期的な目標や活動計画を改めて設定し、その達成や実行との関係性をはっきり示せることを常々心掛けながら支出を行っていきたいと考えている。
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