研究課題/領域番号 |
19K12721
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
根本 彰 慶應義塾大学, 文学部(三田), 講師(非常勤) (90172759)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 国際バカロレア / 学校図書館 / 知の理論 / アーカイブ / 教育課程 |
研究実績の概要 |
4つの研究を同時並行的に進めた。 1)国内の国際バカロレアを実施している高校およびインターナショナルスクール全校に対して学校図書館についての質問紙調査を協力者(東京都立国際高校教諭高松美紀氏)と行った。この調査はこのテーマの実態調査としては初めてのもので、人員、サービス、資料やデータベースについて明らかにするものである。 2) この分野の第一人者であるアムステルダムのアメリカンスクールのAnthony Tilke氏とコンタクトをとって、彼がプロモーターとして関与している国際バカロレアの学校図書館の位置づけについて意見交換を行った。また、彼の著書The International Baccalaureate Diploma Program and the School Library: Inquiry-based Education(2011)の翻訳を推進し、監訳を務めることになり、訳書の準備を行った。 3) 西洋の知識論および学習論を日本の近代化の教育方法と関連付けるためのマクロな検討を行い、『アーカイブの思想:言葉を知に変える仕組み』(みすず書房)という本にまとめ、2021年1月に刊行した。このなかで、西洋思想における根幹概念であるロゴスとそれを社会的に媒介するパイデイアについての基本的理解がないと、国際バカロレアの「知の理論」(Theory of Knowledge: TOK)をカリキュラムとして推進することや学校図書館の位置づけも難しいことを明らかにした。 4)学校図書館と教育課程論の関係の政策史的検討。1997年学校図書館法改正前後の時期に、学習指導要領における総合的学習の時間と教科「情報」など情報教育の導入、子ども読書活動推進法の成立などが行われた。これらがどのように学校図書館制度に影響したのかの政策史研究に着手した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定ではジュネーブの国際バカレア本部を訪問したり、ヨーロッパの関係者に会って、国際バカロレアカリキュラムと学校図書館との関係についての方針や現状、国による差異などの情報を引き出す予定であったが、コロナ禍でかなわなかった。また、国内外のIBDB校や普通の学校の図書館の訪問調査も予定していたが、同様にコロナ禍のために実施することが難しかった。そのために予定を変更して上記のように文献研究と質問紙による研究を実施することに切り換えた。 これによって当初の目的として掲げた「教育課程や教育方法において「知の理論(TOK)」を明らかにすることで、グローバルな教育改革をめざす日本の教育課程論のなかに、学校図書館およびそれを担う学校図書館専門職員の仕事を理論的に位置付ける」に変更はない。むしろ、『アーカイブの思想』をまとめたことで、西洋における「知の理論」と日本の学校現場における「知の理論」の異同が明確になってきたことでやりやすくなってきたことがある。また、質問紙調査によって実証的なデータを採取することができたので、目的に掲げていた日本の学校で用いることができる「知の理論」の政策論的なモデルの構築もしやすくなったということができる。さらに、訪問予定であったTilke氏とはコンタクトをとって、IBDPの現状と学校図書館との関係について意見交換をし今後の協力を取り付けている。 そのために、進捗状況としては順調であると自己評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度でまとめなければならないが、本年もコロナ禍のために外国調査や国内での現地調査は難しい状況だ。そのために次のようにまとめる予定にしている。 1)昨年度行った質問紙調査は日本図書館情報学会春季研究集会(5月15日)で研究協力者が調査結果を発表する予定になっている。これによって、日本の国際バカロレアの学校図書館の現状が明らかになり、課題もはっきりしてくる。論文としてまとめる予定である。 2) 昨年度から取り組んでいる1997年学校図書館法改正の背景を明らかにする研究をまとめて発表する。これは総合学習、情報教育そして読書教育という3つの別個の要因をそれぞれ検討した上で相互の関係を明らかにして、法改正以降の教育改革の進展状況と照らしながらみていくものである。これも論文にまとめて学会誌に投稿する予定にしている。 3)Tilke(2011)を『国際バカロレア教育と学校図書館』(学文社)としてこの秋に翻訳刊行予定にしている。刊行の宣伝を兼ねて、「国際バカロレア教育と学校図書館」をテーマにした公開シンポジウム(おそらくオンライン)を開催し、その場に著者Tilke氏の講演を置き、研究協力者高松氏や学校図書館に関わる教員や職員による発表を通じて日本のIBDPの現状と学校図書館の課題について意見交換をする場にする予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、予定していたヨーロッパでの訪問調査及び国内訪問調査ができなかったことが主たる理由である。可能であれば、訪問調査を計画するが、難しい場合は公開シンポジウムの規模を拡大してそのための費用に充てる。
|