研究課題/領域番号 |
19K12729
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
片山 正純 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (90273325)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 仮想身体 / 身体意識 / 身体所有感 / 運動主体感 / 身体モデル |
研究実績の概要 |
身体に関する自己意識が近年活発に研究されており,この身体意識(運動主体感,身体所有感)の成立には,意図した運動,感覚情報(視覚情報や体性感覚情報など),運動指令の遠心性コピーが重要な役割を果たしている.この観点から,本研究において,身体モデルの変容度合いの指標として最大指先幅(MGA)と最大把持サイズ(MGS)を提案することによって,2019年度の研究目標①と研究目標②を実施した.研究目標①では,仮想空間に仮想手を表示する条件(変形なし条件),仮想手を幾何学的に変形して表示する条件(変形あり条件),変形あり条件での仮想手を被験者の手と異なる方向に表示した条件(変形あり・回転条件)のそれぞれの条件において把持運動課題を繰り返し実行し,その後にMGAとMGSを計測し,さらに身体意識に関するアンケート調査を実施した.この結果,身体所有感の評定値が0より高い被験者群(身体所有感が成立)では,MGAとMGSは変形なし条件と比較して有意に変化したが,低い被験者群(身体所有感が不成立)ではほとんど変化しなかった.しかし,運動主体感に関してはこのような変化は見られなかった.研究目標②では,被験者自身が手指を動かす能動条件と手指が受動的に動かされる受動条件のそれぞれの条件において把持運動課題を繰り返し実行し,その後に上記と同様の計測を実施した.この結果においても研究目標①と同様に結果が得られた.以上の結果から,身体モデルは身体所有感が成立しているときに変容するが,成立していないときには変容しないことを示唆している.一方,運動主体感は身体モデルの変容とは無関係であることも示唆している.さらに,2020年度の研究目標③の一部の研究を実施し,仮想手の骨格提示と光点提示に対する身体意識を調査した結果,光点提示においても運動課題を繰り返すことによって身体所有感が成立することが明らかになった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度に予定していた研究目標①と研究目標②を実施し,上述のように概ね予定通りに進めることができた.さらに,上述のように2020年度の研究目標③の一部の研究を実施した.このため,当初の計画より進んでいる. 2020年度以降に実施を予定している研究目標③と研究目標④において使用する生体信号計測装置の機種選定を再検討したため,予定していた購入時期よりも導入が遅れた.当初の計画では,生体信号計測装置としてPolymateProと皮膚電位計測器(AP-U030)を予定していたが,業者より高機能で安価な装置(BiosignalsPluxの生体信号計測装置)を紹介していただき,予定していた機種との比較を行った.この結果.予定していた機種と同様の計測が可能性であり,生体信号計測用の電極の種類(筋電図,皮膚電位,脳波,心電図,呼吸,fNIRS,力覚,加速度など)も多く揃っていた.さらに,電極からの信号伝達系が絶縁されているためよりノイズに影響されにくくなっていた.以上より,BiosignalsPluxの生体信号計測装置を導入することに決定した.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,計画している研究目標③(2020年度)と研究目標④(2021年度)を実施する.2020年度において,研究目標③では,手の視覚情報が身体所有感(SOB)に及ぼす影響をより詳細に調べるために,表示する手の皮膚表面のテクスチャ(被検者自身と他人のテクスチャ,ソリッドカラー)をマッピングする条件,手の骨格のみを表示する条件,指先と関節の位置に光点 のみを表示する光点条件について調べる.さらに,研究目標①と同様の学習課題を繰り返すことによって,身体意識と身体モデルの変容との関係を詳細に調査する.2021年度において,研究目標④では,身体意識の成立や身体モデルの変容において対象物把持における体性感覚(触覚・力覚)がどのように関与しているかを調べるために,対象物把持における体性感覚情報(触覚・力覚)を様々な条件(力覚あり条件と力覚なし条件のそれぞれにおける対象物の持ち上げ課題,つまみ課題,パントマイム課題)で付加したときの身体意識を計測する.さらに,研究目標①と同様の学習課題を繰り返すことによって,身体意識と身体モデルの変容との関係を詳細に調査する.実験参加者に対しては人を対象とした計測実験に関する研究倫理に配慮し,実験を実施する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
上述のように生体信号計測装置の機種選定を再度行うことによって,同程度以上の計測が可能であり,さらにより安価な装置を購入することができたため,次年度使用額が生じた.次年度使用額は,2020年度の研究におけるデータ処理関連を補強することにより,より効率的に処理できる環境を整えるために使用する.さらに,予定している研究計画をさらに発展させるために,生体信号を計測するための電極(脳波やfNIRSなど)を追加購入する.
|