研究課題/領域番号 |
19K12737
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
我妻 伸彦 東邦大学, 理学部, 講師 (60632958)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 神経回路モデル / 第1次視覚野第2/3層 / 局所神経回路 / 抑制性細胞 / 視覚情報処理 |
研究実績の概要 |
大脳初期視覚野V1第2/3層の神経回路とその活動リズム特性は、様々な情報を統合し、視知覚を実現するための基本的な情報処理ユニットであると考えられる。視覚情報統合を促進するヒト皮質メカニズムを理解するため、興奮性Pyr細胞間の結合強度が対数正規分布に従い、性質が異なる3種類の抑制性細胞(PV、SOM、VIP)が協働するV1第2/3層の神経回路モデルを構築し、計算機シミュレーションを実行した。これは、最新の神経生理学的知見と計算神経科学的知見を統合した神経回路モデルである。また、ニューロン同期と活動リズムが情報統合に果たす役割を検証するため、生理学的知見に忠実なボトムアップ的視覚入力とトップダウン的注意信号を、構築した神経回路ネットワークへと適用した。 シミュレーションの結果、トップダウン的注意信号が視知覚の形成に重要な役割を果たす速いニューロン活動リズム(γ振動)の発生に寄与することが示唆された。また、このような速いニューロン活動リズムの創出において、PV抑制性細胞が重要な役割を果たす可能性が示された。さらに、興奮性Pyr細胞とSOM抑制性細胞の相互作用が、遅いニューロン活動リズム(β振動)の発生に関与することが、構築した神経回路モデルの応答解析から確認された。このようなトップダウン的注意と特定の抑制性細胞の活性化に起因するニューロン活動リズム変調は、近年報告された齧歯類やサルを用いた電気生理実験の結果とよく一致しており、視覚情報統合と視知覚を形成する神経回路とそのメカニズム解明における重要な知見を与えていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究課題初年度に構築した神経回路ネットワークモデルの計算機シミュレーションとその結果の解析から、特定種類の抑制性細胞の活性化に起因するニューロンリズム活動変調のヒト皮質メカニズムが予測された。これらの結果は、視覚情報統合と視知覚を形成する神経回路メカニズム解明における重要な知見を与えていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在のネットワークモデルは、視覚情報処理の基本ユニットに相当する比較的小規模な神経回路モデルである。複数のユニットを連絡、またはネットワークの大規模化により、より複雑な視覚情報処理メカニズムの検証や脳神経系に起因する病床のシミュレーションが可能になる。次年度は、これまで構築した神経回路モデルの発展を試みる。また、これまで得られた研究成果を論文にまとめ、学術雑誌へと投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により予定していた学会参加や出張の中止など旅費の支出ができなかったため、次年度使用額が生じた。2020年度の未使用額と2021年度の配分額については、神経回路ネットワークモデルの大規模化を検討しているため、大容量メモリと複数の計算コアを搭載した計算機の購入に利用する。これにより、より効率的なシュミレーション実行環境の実現とデータの取得が可能になる。
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