本研究は、ドラム演奏の熟練者は非熟練者と比べて何が違うのか、特に局所的な打運動と大局的な全身運動との関係を明らかにすることを目的に開始したが、研究期間中に新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、人を対象とした実験を実施することが困難であった。そこで、ドラム演奏における局所的な運動と大局的な全身運動の関係の基礎となる運動課題、すなわち手首における振り子運動と全身運動を記録した取得済みのデータについて分析し、PlosOneに公表した論文の概要を示す。
体肢間協調については、体肢運動を同位相・逆位相で同期させることを課題とした実験が行われてきたが、その際、運動に直接関わらない身体部位からのノイズの影響を抑えるため、例えば、手指の同期課題であれば手首などは固定されてきた。しかし、ドラム演奏などの楽器演奏を含む実践的な活動では、目的動作を妨げないようなかたちで全身の姿勢を調整し、そうすることで目的動作をより円滑に達成できるように調整している可能性が考えられる。そこで本研究では、全身協調と体肢間の協調について明らかにするために、参加者が、前腕固定条件と前腕非固定条件で、両手で把持した振り子をメトロノームのビープ音にあわせて同相または逆相で振ることを課題とする実験を実施し、前腕固定/非固定条件、位相モード、周波数によって課題達成の度合いが異なるか、協調構造がどのように異なるのかに注目して分析を行った。その結果、固定条件と非固定条件の両方で、課題固有の協調構造が出現することが示された。同位相の非固定条件では、左右の振り子の位相差に示されるように、出現した協調構造が課題達成度を向上させた可能性がある。これらの結果は、局所的な振り子課題の達成に、大局的な協調構造が関与していることを示唆しており、局所的な運動と大局的な運動の関係について、基礎的な運動について示すことができた。
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