研究実績の概要 |
これまでに、シナプス前軸索終末がターゲットとしての樹状突起スパインを活動依存的に選択して結合するという仮定のもとにモデル化を行い、サルやネコに観られる規則的な方位マップやげっ歯類動物に観られるSalt & Pepper状の方位表現の形成へと適用してきた。また、この結果を使って様々な視覚入力における神経活動のダイナミクスを論じてきた。しかしながら、近年の研究では、ほとんどのシナプスは後細胞の樹状突起からスパインが新生/伸張して前細胞の軸索と結合する、または逆に退縮して結合を切り離すといった現象が起きることが報告されている。このスパインの新生/伸張や退縮は、長期増強・抑圧によってダイナミックに変化をしている。スパインが伸長したり退縮したりするときには、スパインの細胞骨格であるアクチンフィラメント(Fアクチン)がアクチン分子(Gアクチン)の重合により伸長したり、脱重合によりGアクチンに分解したりする。この遷移に関わる分子群として注目されているのは、small GTPasesであり、特に実験的に深く研究されているのが、Rho-GTPases (RhoA, Rac1, Cdc42)である。本年度は、これらの分子群が活動依存的に活性化されることによって、スパインの新生/伸張と退縮を引き起こす過程をモデル化し、神経回路網の形成へと適用した。その結果、生後発達期に観られるシナプス数が一旦増加してから減少することや、シナプス数が減少する刈込みの過程で神経細胞の方位/方向選択性と受容野構造が成熟し、サルやネコで観られる規則的な方位マップが形成されることを示した。また、視覚野細胞の方向選択性は、方位選択性の発達よりも遅れることが本モデルから予測された。げっ歯類動物の視覚野では、皮質内での興奮性の結合密度がサルやネコよりも租であることが知られているが、この結合密度の違いを取り入れることによって、新規モデルでもSalt & Pepper状の方位表現が再現できることを示した。
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