研究課題/領域番号 |
19K12759
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
住 隆博 佐賀大学, 理工学部, 准教授 (30358668)
|
研究分担者 |
橋本 時忠 佐賀大学, 理工学部, 准教授 (90392860)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 粘弾性 / 物性推定 / 気泡振動 / 逆問題解析 |
研究実績の概要 |
本研究における粘弾性体の物性推定法は、粘弾性材料における球形気泡振動の可視化実験と、それと等価な運動方程式に対する数値的な逆問題解析、の二段階で構成される。 可視化実験について、従来の衝撃波の外部照射によって粘弾性サンプル内の微小気泡を励起させる方法を改め、パルスQスイッチNd:YAGレーザーを導入して同サンプル内に慣性キャビテーションを強制的に生成させる方法に変更した。これによりこれまで実現が困難であった非線形粘弾性領域(気泡の最大半径が平衡半径の数倍程度)の気泡振動を安定して得ることが可能になった。実際に溶質濃度の異なるいくつかのポリビニルアルコールハイドロゲルを対象にシャドウグラフ法による気泡振動の高速度撮影を行い、再現性の高い時系列データを取得することに成功した。続いて、本実験データに対して昨年度までに構築した線形粘弾性モデルによる気泡振動の逆問題解析を適用し、粘弾性物性の推定を試みた。気泡振動は非線形粘弾性領域にあると想定されるにも関わらず、標準線形固体モデル(Zenerモデル)による気泡運動方程式は適切に現象を予測し、結果として統計的にばらつきの少ない粘弾性物性を推定することができた。 一方、上記に並行して非線形粘弾性モデルによる気泡運動方程式の数値解法について検討を行った。線形粘弾性モデルによる気泡運動方程式は一般に連立の常微分方程式で記述されるが、非線形粘弾性モデルでは空間次元が加わり連立方程式の一部が偏微分方程式となる。そのため、数値解法としては時間方向の離散化に加えて空間方向の離散化が必要となる。そこで、いくつかの非線形粘弾性モデルによる気泡運動方程式に対して、スペクトル選点法による数値解法を新規に構築し、ベンチマーク問題によってその性能を確認した。(ただし、現時点で逆問題解析の枠組みへは未実装である)
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
可視化実験については、パルスQスイッチNd:YAGレーザーの導入によって粘弾性サンプル内に安定した気泡振動を生成できるようになった。また、シャドウグラフ法を用いた気泡振動の高速度撮影画像に対して、二値化処理を完全に自動化して気泡の等価円半径を求めるように後処理を改良したことで、恣意的要素の混入が抑制され実験データの再現性が大幅に向上した。 一方、昨年度までに構築した標準線形固体モデル(Zenerモデル)による気泡運動方程式によって、本実験データを適切に予測できることがわかった。当初は非線形粘弾性領域の気泡振動の予測には、非線形粘弾性モデルが必須と考えていたが、少なくとも今回対象としたポリビニルアルコールハイドロゲルに関しては、線形粘弾性モデルによる気泡運動方程式によって良好な物性推定が可能であることがわかった。当然ながら、粘弾性モデルを含めた推定法自体の検証や他の粘弾性材料への適用については今後検討する必要があるが、粘弾性体の非線形物性推定法の構築という意味においては、現時点においてミニマムサクセスは得られたものと考えられる。 以上から、「おおむね順調に進展している」と評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
現時点における最大の課題として、これまでに構築した気泡運動方程式による物性推定法の検証がある。そのため、あらかじめ詳細な物性がわかっている水を対象に、本推定法が適用可能であるかを調査する。ただし、水はニュートンの粘性法則のみが作用するため、粘弾性モデルの検証にはならない。ここでは、気泡運動方程式の逆問題解析手順の検証に焦点を当てる。 可視化実験について、既存の高速度カメラによる撮影では、粘弾性サンプル内にキャビテーション気泡が発生し振動が収束する5周期程度の間におよそ20フレーム程度しか取得することができない。試行回数を増やすことでデータ点数は確保できるが、気泡振動の極小点付近の解像は依然として非常に困難である。そこで、より詳細な実験データを得るために、時空間解像度のより高い高速度カメラを学外より調達し気泡振動の再撮影を行う。 数値解析について、構築した非線形粘弾性モデルによる気泡運動方程式の数値解法を逆問題解析の枠組みへ実装する。その上で、物性推定結果を線形粘弾性モデルのものと比較し、非線形粘弾性モデルの必要性の有無について検討を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
可視化実験においては、安定した気泡振動が得られているものの、現状のレーザー入力エネルギーの許容範囲は非常に狭く、入力エネルギーが小さ過ぎれば気泡は生成されず、大き過ぎれば球形にならないことがある。したがって、より広い入力エネルギー範囲で気泡振動が可能になるように光学系を見直す予定であり、集光レンズ等の追加購入が必要となる。また、数値解析については、非線形粘弾性モデルを扱う際に計算負荷の増加が予想されるため、演算能力の高いPCの購入が必要となる。
|