研究課題/領域番号 |
19K12762
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
塚田 孝祐 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (00351883)
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研究分担者 |
毛利 聡 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00294413)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超解像 / 酸素分圧 / シングルセル / イメージング / 代謝 |
研究実績の概要 |
回折限界を超える空間分解能で生体の酸素分圧を画像化する超解像光学系および信号処理アルゴリズムを確立し,未知なる単一細胞内の酸素濃度分布の可視化を実現することを目的とした.そのためにレーザのガウシアンビーム(TEM00モード)および中空ビーム(TEM01モード)で二次元スキャンして得られる画像の差分を取り,超解像点像関数によるスキャンと同等の画像を得るSLAM (Switch Laser Mode) 法を採用した.まず,実測に先駆けて超解像の実効性をシミュレートし,ガウシアンおよび中空ビームそれぞれをNDフィルタで補正することで,100nmの空間分解能を達成することを示した.それを基にして超解像を得るための基礎的な光学系を構築した.Nd:YAGパルスレーザの第2高調波(波長532 nm)をビームスプリッタで分割し,ガウシアンビーム,螺旋位相板を介した中空ビームそれぞれで対象を2次元走査した.蛍光色素を含有する直径 1μmのポリスチレン粒子をイメージングしたところ,ガウシアンビーム単独に比べてSLAM法では高い空間分解能が得られた.マウスに酸素感受性色素を投与し,背部皮膚の微小血管の酸素分圧イメージングにSLAM法を適用した結果,同様にSLAM法では通常のガウシアンビーム単独よりも高い空間分解能でイメージングが可能であることが示された.以上要するに,超解像の実現をシミュレーションから条件を決定し,実際の光学系の実測実験から計算値と同等の空間分解能を得ることに成功した. さらに,本法の技術応用として,腫瘍細胞に対する化学療法剤動態と微小環境の関係を超解像イメージングから明らかにすることを提案した.運動性細菌を薬物送達媒体として利用した際の化学療法剤の送達をシミュレーションを行い,送達効果を定量した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画において,平成31年度および令和2年度は方法論の確立を目指し,光学系構築と数値シミュレーションを繰り返して空間分解能 100 nm以下の達成を目標にした.初年度は数値シミュレーションによる空間分解能の算定を行い,目標の分解能が実現できることを示した.さらに光学系の基礎を構築し,螺旋位相板の有無によるそれぞれのレーザの強度分布を取得した.また蛍光微粒子などの生体外試料,およびマウス血管を用いて分解能の向上を実測実験から示した.以上より当初の計画どおりに進展したと言える.令和2年度からファントム実験を開始して装置の有効性を示し,最終的に細胞イメージングへと移行することを目指す. また,当該技術を応用するために悪性腫瘍の微小環境を新たに設定し,腫瘍組織への化学療法剤の送達と周囲の酸素分圧を同時に可視化する課題を考案し,実測に先立ち化学物質の輸送シミュレーションを行った点は新たな研究の展開として期待以上の成果が得られた. 一方,光学系の課題として,画像取得時間が長い点が改善点としてあげられた.螺旋位相板を介した中空ビーム成形が困難であることから,試料に対してレーザビームを走査するのではなく,試料台を平面方向に移動して画像を取得しているが,高分解能かつ広範囲で画像を取得する場合には予想以上に長時間を要することが判明し,次年度以降の課題とした.
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今後の研究の推進方策 |
計画2年目となる令和2年度は,当初の予定どおり生体ファントム実験,および画像取得の高速化を中心に進める.生体ファントムは蛍光色素を含有するポリスチレン粒子を独自に作製し,さらにそれを細胞を模倣したハイドロゲルに包埋した仮想細胞を作製し,平面方向における空間分解能に加えて深さ方向の分解能を定量する.申請者らは酸素感受性プローブを含有した微小粒子を既に開発済みであり(Yabuki et al, JJAP, 2019),作製工程の諸条件を調整することで容易に粒径を制御できるため,これを空間分解能の定量に用いる.一方,光学系の高速化に関しては,電動試料ステージからガルバノスキャナによるレーザビーム走査法に変更する.また,酸素分圧計測は酸素感受性色素の発光寿命から定量されるが,発光寿命の短い色素に変更することによって,一点あたりの計測時間を短縮させる.具体的には,1ms程度の発光寿命を有するPd系ポルフィリン色素から,RuやPtベースの色素に変更することによって寿命計測に必要な時間を1/100程度に短縮できる.寿命が短い色素を用いることで計測感度が低下する可能性があるため,時間短縮と計測精度を両立させる計測条件を決定する. 上記のファントム実験に加え,培養細胞を用いた一細胞酸素分圧計測を試みる.上記の酸素プローブは細胞内へ送達しにくいため,S/Nが著しく低下する可能性がある.そこで,細胞質を染色する一般的な蛍光プローブを用い,SLAM法による超解像を得る.その信号強度を基準として酸素プローブの発光強度を取得し,最終的に発光寿命から酸素分圧を定量する.
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