研究課題
脳動脈瘤には破裂の前段階として「増大」の段階がある。瘤の増大はそれが進行するとやがて破裂に至るという意味で非常に重要な現象である。しかしながら,そのメカニズムや危険因子についてはよくわかっていない点が多い。それらを明らかにすることができれば,瘤を有する患者のより良いマネジメントに繋がると期待できる。今年度は,共同研究先から提供された脳動脈瘤の増大症例15例と非増大症例15例を対象として,各症例のCTデータから血管の3次元モデルを作成した。それらのモデルに対して血流の数値シミュレーションを行い,瘤の増大との関連が疑われている血行力学的指標を計算し,増大群と非増大群の比較を行った。これにより,脳動脈瘤の増大に関連する血行力学的因子は何かを検討した。以下では,血行力学的指標の一つである壁せん断応力をWSS(wall shear stress)と表記する。WSSの大きさの一周期平均値を表すTAWSS,WSSベクトルの空間勾配の大きさの一周期平均値を表すTAWSSG,およびそれらを規格化した量であるNWSSとNWSSGについては,増大群と非増大群の間に統計学的に有意な差は見られなかった。一方,WSSの時間的な乱れを表す血行力学量であるOSIおよびNtransWSSについては,増大群と非増大群の間に統計学的に有意な差が認められ,増大群の方が乱れが強い結果となった。すなわち,WSSの時間的な乱れが脳動脈瘤の増大に関与している可能性が示唆された。血管内皮細胞を用いた過去の研究において,層流性のWSSと乱流性のWSSを内皮細胞に作用させた場合で内皮細胞の応答が有意に異なり,乱流性WSSを作用させた場合には炎症性の反応(実際に脳動脈瘤で生じることが知られている反応)が見られたと報告されている。このことから,WSSの強い乱れが内皮細胞の変性を介して脳動脈瘤の増大に関与している可能性が疑われる。
2: おおむね順調に進展している
今年度は30名の脳動脈瘤症例のCT画像から血管の3次元モデルを作成し,増大群と非増大群の血行力学的な比較を実施することができた。破裂ではなくその前段にある増大に関する比較ではあるものの,「shear stressの乱れが瘤破裂を特徴付ける因子である」という本研究の仮説をサポートするような結果が得られつつあることから,研究はおおむね順調に進展していると考えている。
解析症例数を増やし,それでもなお増大群と非増大群の間でshear stressの乱れに有意な差が認められるかを検討する。他の血行力学的指標についても,解析症例数を増やした条件下でどうなるか検討を続ける。得られた結果を論文としてまとめるとともに,国際・国内学会で研究成果を発表する。
出席を予定していた国際学会がキャンセルとなったことなどにより,次年度使用額が生じた。これについては次年度,より高速で効率的な血流計算を行える計算機を購入するための研究費として有効活用する計画である。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
American Journal of Neuroradiology
巻: 40 ページ: 834~839
10.3174/ajnr.A6030
Journal of Biorheology
巻: 33 ページ: 43~52
10.17106/jbr.33.43