脳にリンパ系はないが似た働きを担うグリンパティックシステムの存在が議論されている。この要素に脳間質液の動きがあり老廃物の除去に係っていると考えられている。MRI の拡散強調画像(DWI)から脳間質液の動きを検知する方法の構築が本研究の目的1であった。脳間質液の動きにはコヒーレントな(揃った)動きとインコヒーレント(ランダム)な動きがあり1ボクセルにはこの2つが混在しうる。コヒーレントな動きは DWI 信号強度に影響しないと言われるがコヒーレント・インコヒーレントが混在するときはコヒーレントな動きも信号強度に影響することを明らかにした。信号強度は撮像パラメータ b 値に依るが、この混在がある場合の b の関数としての信号強度の理論式(模型)を構築した。理論式を信号強度データにフィットしコヒーレントな動きに関するパラメータを推定できるはずである。しかし、極度の非線形性から最小二乗法やベイズ推定ではこれは不可能であった。このため機械学習を使った推定を行った。方法1では、模型を使って様々なパラメータ値に対する信号強度を人工合成しそれを教師データとして人工ニューラルネットワーク(ANN)を訓練して撮像データからパラメータを推定する ANN とする。本研究の目的2はグリンパティックシステムの様態の解明であった。方法1で脳間質液の動きを調べるとコヒーレントな動きは重力方向に活発であった。しかし、方法1では用いる教師データのパラメータ範囲や分布に推定が依存する問題があった。このため2023年度には別の方法2を開発した。方法2では自己教師型機械学習を利用する:最終出力直前の層で模型パラメータを出力しそれを模型に代入して信号強度を作りそれを ANN の最終出力としてそれが入力と等しくなるように訓練する。方法2でも1と同様の結果が得られ、脳間質液の動きが重力に影響されている可能性が示唆された。
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