研究課題/領域番号 |
19K12769
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
日坂 真樹 大阪電気通信大学, 医療健康科学部, 教授 (40340640)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光学顕微鏡 / 共焦点顕微鏡 / 位相差顕微鏡 / 円環状光検出器 |
研究実績の概要 |
組織観察法として病理検査や細胞診検査などで利用される光学顕微鏡は,現代においても先端かつ重要な研究対象の1つとして位置付けられている.近年,iPS細胞(人工多能性幹細胞)や細胞シート評価における位相差観察法として,特にその重要性が増しており,新たな手法の開発が求められている.本研究課題では,新しい光学顕微鏡の開発として,振幅コントラスト像および位相コントラスト像の分離観察や球面収差の無収差観察,多重回折光や多重散乱光の低減,3次元断層観察などの特徴を有する共焦点位相差顕微鏡の開発を進めてきた. この共焦点位相差顕微鏡は,輪帯照明による位相物体の回折特性を積極的に利用し,フーリエ空間における空間周波数抽出フィルタを適用することで,観察試料の位相構造のみを選択的に観察することができる.さらに,輪帯照明に伴う8の字状空間周波数フィルタを適用することで,画像再生に必要な1次回折光のみを選択的に抽出し,細胞組織内で発生する多重散乱光や高次回折光の多くを除去できる.本顕微鏡の創出とその特性評価は,iPS細胞観察だけでなく,表層組織および表層近傍に発生した癌細胞などの早期発見や早期診断にも適用可能な新しい医療診断機器の開発として貢献できる. 本年度は,共焦点位相差顕微鏡における高速撮影に向けて,多チャンネル円環状光検出器による高速化と高感度化,低ノイズ化の基礎研究を進めた.前年度に試作した40素子円環状光検出器による性能評価を試みると,製作した光検出器の大きさ,各光検出器の応答速度と感度,雑音レベルにおいて,十分な性能ではなかった.そのため,光検出素子,増幅回路,信号取り組みシステムを再検討し,新たに60ch円環状光検出器を開発した.しかしながら,60素子で構成される円環状光検出器の出力信号が不均一性が依然として残存しており,各光検出器を個別に校正するための改良も並行して進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナウィルス感染対策に伴う遠隔授業に伴い,本年度もそれらの準備等に要する時間が大幅に増え,研究を遂行するための時間が大幅に制限された.また,前年度から開発を進めている円環状光検出器の多チャンネル化に伴う光検出器の改善において,コロナ禍による企業から物品納入期間も大幅に伸びたことも要因の1つである. 本年度,共焦点位相差顕微鏡において重要な役割を果たす円環状光検出器の高速化および高感度化を進めた.光検出面の高密度化を進めるために,縦横比1:6の小型光検出器を円環状に60個配置するとともに,円環状光検出器の小型化も進めた.さらに,信号の取り込み速度を高速化するために,多チャンネルAD変換器で並列取り込み可能なシステムへの改良を進めた.また,多素子光検出器において各光検出器の検出信号差が生じており,光検出器および増幅回路周辺の電気部品の選別も実施した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究にて導入したガルバノミラーによる高速走査に対して,製作した60ch円環状高速光検出器の光検出特性を早急に評価する.また,構造上,光検出素子と演算増幅回路とを導線で配線したためにノイズが混入しやすく,その対策も進める.検出器の評価後,当初予定の弱位相構造を持つ試料を用いて,構築した光学顕微鏡による撮影画像を評価する.また,位相マッピング法を用いた強位相物体の位相構造に対しても定量評価できるように実施する.しかしながら,現状の進捗状況を考慮すると,当初予定していた結像理論による理論的評価の検討の実施は本年度も難しい状況である.
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次年度使用額が生じた理由 |
遅れていた研究の状況を取り戻すために,前年度に導入した2次元ガルバノミラーによる高速走査性能を評価し,さらに未使用であった予算執行を試みた.しかしながら,時系列的に研究を進める上で,一部物品の納入期間が従来よりも長く,それに伴う予算執行が再度滞った.また,コロナウィルス感染対策に伴って,当初予定していた海外での学会発表等も実施できず,旅費の執行ができなかったために,再度,次年度使用額が生じた。研究期間延長に伴う次年度では,学会誌への論文投稿など中心に積極的に活動予定である。また,本顕微鏡において重要な要素技術である能動的画像処理法の改良や強位相物体のマッピングなどを適用するための情報処理機器の環境も整える.
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