生体組織細胞の観察法として,病理検査や細胞診検査などで使用される光学顕微鏡は,現代においても先進かつ重要な基礎研究分野として位置付けられている.特に,近年,iPS細胞や細胞シート評価において使用される位相差観察法は,特にその重要性が増している.本研究課題では,新しい光学顕微鏡の開発として,組織細胞の振幅コントラスト像と位相コントラスト像を分離観察でき,さらに球面収差や多重散乱光を低減して3次元断層観察が可能な共焦点位相差顕微鏡の開発を進めてきた. この共焦点位相差顕微鏡は,輪帯照明に伴う位相物体の回折特性を利用し,フーリエ空間における空間周波数抽出フィルタを適用することで,観察試料の位相構造のみを抽出して観察することが可能である.さらに,輪帯照明に伴う8の字状空間周波数フィルタを適用することで,画像再生に必要な1次回折光のみを効率的に抽出し,組織細胞内で発生する多重散乱光の多くを除去できる特徴を持つ.この共焦点位相差顕微鏡の開発とその特性評価は,iPS細胞観察だけでなく,表層組織および表層近傍に発生した癌細胞などの早期発見にも適用可能な新しい医療診断機器として貢献できる. 研究期間を1年間延長して進めてきた本最終年度は,高感度化,低ノイズ化を目指して前年度まで取り組んできた60ch円環状光検出器の再回路設計および製作,さらにその並列光検出器を高速制御するシステムを見直した.特に,光検出器と増幅回路の配置や,多チャンネルAD変換器による同時並列計測法の改良,増幅信号の校正用回路の検討を実施した.試作回路の感度や信号対雑音比を評価すると,依然として不十分な性能であったが,試作した60ch円環状光検出器を共焦点位相差顕微鏡の光検出部に組み込み,画像撮影を試みた.これまでのCCDカメラを用いたシステムでは画像化されていたが,本試作システムでは画像化までは至らなかった.
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